ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



真っ暗な祠の中を、僕の持った懐中電灯の小さな明かりが照らし出す。
真ん中に台座があって、そこに木彫りの竜の像があった。
特に不気味でもなんでもない、どこかのお土産店にでも並んでそうなありふれた雰囲気の竜の像だ。
その両脇には花が飾られ、手前には野菜やら果物やらの供え物が置かれてた。



その他には何もない。
もっとなにか変ったものがあるのかと思ってただけに、ちょっと拍子抜けしたように感じた。



人間が数人入ればいっぱいになるような狭い所だ。
他に見るものもないし、僕自身にもこれといった変化もない。
やっぱり、父さん達はなにか思い違いをしてたんだ。
何も起こらなかったという安堵感に包まれ、僕は外に出た。



「父さん!……あ…」



外に飛び出すと、そこには見知らぬ男の人が立っていた。
僕よりも年上な…20代くらいに見える男性だ。
その人に見覚えはなかったけど、なぜだか僕のことをじっと見ていた。



「えっと……」



父さん達は僕が祠から出て来たことに気付いているはずなのに、出て来ない。



「おかえり……」

「え……?」



僕は男の人の傍を通り過ぎようとした時、唐突にそう言われた。
あたりに人はいないから、それは間違いなく僕に向かって言われた言葉だと思うのだけど、その意味はわからなかった。



「こっちだ。」

「え…あ、あの……」

「どうした?」

「えっと…その、両親がこのあたりに……」

僕がそういうと、男性は曖昧な笑みを浮かべた。



「……気付いていないのか?
ここは人間の世界ではない。
竜の国だ。」

「えっ!」

僕はあたりを見渡した。
さっきと変わった様子はない。
月明かりは明るいけれど、どこにも変わった印象はないように思えた。



「あ、あの……」

「……困った奴だな。」

そう言って男性は微笑むと、その男性の身体は一瞬にして大きな竜に変わり、星の輝く夜空に向かって飛び上がった。



「あ…あぁ……」

僕は腰を抜かして、その場にへなへなと座り込んだ。


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