ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ







「あそこだ。」

車を停めて、細くて暗い道を延々30分も歩いた頃…
小さなほったて小屋が佇んでいるのが見えた。



「あそこに行って、僕はなにをすれば良いの?」

「それは聞いて無い。
ただ、あそこへ一人で来させるようにと、そう言われたんだ。」

「……そう。」

まだ僕は混乱から脱してはいない。
当たり前だ。
竜との約束だなんて……



ただ、僕の脳裏をかすめるのは、小さい頃から何度も見てた竜の夢のこと…
その符号が、妙に薄気味悪かった。



「なにかあったら叫ぶんだぞ。
父さん達はここに隠れてるから。」

「大丈夫だよ。
何もないから。」

「……そうか。
……うん、そうだよな。
なにもない、きっと、何も起こらない。」

「あっ!」

父さんが僕の身体を抱きしめた。
大人になってからは長らくこんなことはしてなかったから、照れくさくもあったけど、久しぶりの父さんの身体は温かくて……
身長もさほど変わらなくなった父さんは、僕を抱きしめたまま泣いていた。



「父さん、次は私よ。」

今度は僕より小さくなった母さんが僕を抱きしめる。

なぜだよ?
なぜこんなことをする?
どうして泣くんだ?
なにもないんだから、泣くことなんてないじゃないか。
そう思う僕の瞳も、知らないうちに濡れていた。



「や、やめてよ、父さんも母さんも…!
さ、おかしなことはすぐに済ませて帰るよ。
じゃ、僕、行って来るから!」

僕は母さんの身体を引き離し、祠に向かって歩き始めた。



なにもない…
ただの古いほこらじゃないか。
あそこに行ったところで何も変わらない。
これから家に戻ったら、もう朝だな。
父さんも疲れてるだろうに、運転大丈夫かな?
そうだ…おじいちゃんの家に行けば良いんだ。
おじいちゃんの家ならここから近いはず。
おじいちゃんに今日のこのおかしな出来事を話して聞かせてやろう。



祠の扉はすぐ目の前だ。
父さん達が見てるのがわかってるから、僕は躊躇いもせずにその扉を開けて中に入った。

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