ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ


「父さん…!僕は町になんて行かない!
女の子の友達なんて欲しくない!
だって、僕にはコハクがいるんだから!
僕は……コハクを愛してるんだ!」

「エルン!馬鹿なことを言うんじゃない!」

マーティの手が、派手な音を立ててエルンの頬を打った。
息子に手を上げたのは、マーティにとってこれが初めてのことだった。
気まずい沈黙と制止した時間の中、エルンの消え入りそうな声が響く。



「……父さん……コハクはどこ……?」

マーティの瞳が大きく見開かれ、苛立った声が飛んだ。



「コハクなら、草原だ!」

その言葉が終わらないうちに、エルンは作業場を飛び出した。
不吉な胸騒ぎを感じながら…









「コハクーーーーー!!!」

草原にエルンの悲しい絶叫が響き渡る…



黒く焼け焦げた一角には、もう温もりさえ残ってはいなかった。
叩きつけられ、ただの炭と姿を変えた木と陶器の欠片が無残に遺るその場所で、エルンは全身が千切られるかのように泣き叫ぶ。



泣いて泣いて泣いて…喉が破れる程叫んで…子供のように息を切らしたエルンの耳にかすかな物音が届いた。
規則的なその音はどこか懐かしく…



(……コハク……?
君なの…?)



直感的にそう感じ、エルンは耳を澄ませて音の元を探り出す…
黒い炭の中を注意深くまさぐるうちに、エルンの手に何かが触れた。



(これは……!)

それは、黒くすすけた真鍮の塊だった。
焼けていびつにはなってはいたが、元がハートの形だったことはエルンには容易に推測出来た。



(あ……)

エルンの脳裏に、幼い頃の記憶が甦った。
それは、コハクが完成間近な頃、父がコハクの身体に埋めこんだものだった。



「これは、コハクの心だよ。」

エルンの頭に、そう言って笑った父親の顔が思い出された。



「コハク……あ……」

握り締めたコハクの心がかすかに脈動しているのを感じ、エルンは再び手を開く。
それをみつめるエルンの瞳からは、止めど無い涙が溢れ出した。



「コハク……
僕……きっと、君を生き返らせてみせるから。
もう少し時間はかかるかもしれないけど…前より素敵な女性にしてあげるから…
だから、その日まで待っててね…」

手の平のコハクに微笑みかけ、エルンは歩き出した。
自分の家とは違う方向に…



(さようなら、父さん…
僕は…これからもコハクと生きていきます…)



……エルンの目の端で、コハクが嬉しそうにはしゃぎ駆け回る姿が映ったような気がした。


- 19 -

しおりを挟む
コメントする(0)

[*前] | [次#]

お礼企画トップ 章トップ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -