ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



「コハク、よろしくね。
知ってると思うけど、僕、エルンっていうんだ。」

エルンはコハクに専用の椅子を与えそこに座らせた。
近所には民家さえない田舎町の外れに住むエルンには、もちろん友達等いなかった。
その状況しか知らないエルンは、特に大きな寂しさを感じたこともなかったが、コハクが部屋に来てからは、今まで味わったことのない満ち足りた気持ちを感じていた。
朝、目が覚めると、まずはコハクにおはようと声をかけ、その長い髪を梳き、二つに分けて結わく。
これが、エルンの朝の日課となった。

寂しい気持ち、悲しい気持ち、嬉しい気持ち…
エルンは日々変化する素直な感情を毎日コハクに話して聞かせた。

時には外で見掛けた野の花を摘み、時には降り積もった雪で作った小さな雪だるまをコハクの前に差し出した。
そんな時、エルンの瞳には、コハクがとても喜んでいるように映り、それがまたエルンの心を温かいものにした。



ある天気の良い爽やかな日に、エルンは日当たりの良い窓辺にコハクの椅子を移動した。

「コハク、ここは気持ちが良いだろう?
本当は外に連れて行ってあげたいんだけど、君は僕より大きい上にけっこう重いから…
僕にはまだ連れて行ってあげられないんだ。
あ、あそこに大きな鳥がいるよ!」

「……重いなんて、失礼ね!」

「……え……?」

エルンが外の鳥から部屋の中に視線を戻すと、そこには一人の少女が立っていた。



「き…き…君はまさか……」

「エルン…鳥を見に外へ行きましょう!
お父さんにみつからないように、こっそりと、ね…」

「え……あ……あ……」

まだ驚きから抜け出せないでいるエルンの小さな手を、それより大きな少女の手がやさしく握る。
その手のほのかな温もりが、エルンの気持ちを安心させた。
二人は家をこっそりと抜け出すと、近くの草原へ向かって駆け出した。



「素敵…外ってこんなに気持ちが良い所だったのね!」

草原の中ほどまで来ると、コハクはエルンの手を離し、大きく両腕を広げあたりをやみくもに走り回った。



「素敵!素敵!
こんなに自由に身体が動かせるなんて……!」

コハクの動きを目で追うエルンは、軽い眩暈を感じその場に座りこむ。



「あら、エルン、どうかしたの?」

「だって…コハクがそんなにくるくる回るんだもん…僕、目が……」

コハクは口許を押さえておかしそうに笑うと、エルンの隣に腰を降ろした。



「エルン…ありがとう。
あなたのおかげよ…」

コハクはそう言ってエルンの髪を優しく撫ぜた。


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