ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



「待って!
待ってよ、コハク!!」

「エルンったら、昨年より背は伸びてるのに、足の方は全然速くなってないのね!
さぁ、頑張って私を捕まえてごらんなさい!」

悪戯っぽく笑うコハクに向かい、エルンは頬を膨らませた。



「コハクの意地悪!」

コハクはそんなエルンの言葉も気に留めず、ふわりと身体を反転させると草原の中を駆け出した。



「あ…コハクったら…待ってって言ってるのに…」

エルンの表情が膨れっ面から半ばべそをかいたような情けない顔に変わり、短い足を懸命に動かしてコハクの後を追っていく。



(あぁ…風が気持ち良い…)

たまにエルンが外へ連れ出してくれることはあるが、こうしてコハクが自分の足で走る事が出来るのは年に一度きり。
人形のコハクが完成し、「コハク」と名付けられたこの日だけ。





エルンの母は、エルンが二歳になったばかりのある寒い朝、信じられない程呆気なく死んだ。
風邪をひいて体調が良くないから今夜は早めに休むと言ったのが、彼女の最後の言葉だった。
エルンの父・マーティが目覚めた時、隣のベッドで眠っていた彼女はすでに旅立っていた。
うめき声一つ上げず、誰にも気付かれずひっそりと…

マーティは、母を失ったエルンのために、人形を作る事を思いついた。
家には無数の人形があったが、彼のためだけの魂を込めた人形を作ろうと思いついたのだ。
それで少しでもエルンが癒されるように…寂しい気持ちを和らげるようにとの祈りを込め、一心不乱に情熱を注ぎこんだ。

幼いエルンは、そんな父親の姿をじっと見ていた。
ただの木や粘土が少しずつ姿を変えていく様を、父親の傍らでエルンは飽きる事なくずっと見つめ続けた。
亡くなった妻への愛情、エルンへの期待、様々な想いを込められた人形は、丁寧に丁寧に、長い年月をかけて作り上げられた。



「エルン、おまえの大切な友達だ。
おまえが名前を付けてあげなさい。」

父がそう言ったのは、エルンが4つの時だった。



「え…っと……」

春を思わせるやわらかな色のドレスをまとったコハクを前に、エルンは緊張した面持ちでしばし立ち尽す。



「どうした?思いつかないのなら父さんが代わりにつけようか?」

エルンは、その言葉に素早く首を振り呟いた。



「……じゃ…じゃあ、コハク……」

「コハク?なんだか奇妙な名前だな。
だが、おまえが気に入ってるならそれで良い。
これからずっとコハクを可愛がってやるんだぞ!」

「うん、ありがとう、父さん!」




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