ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



「あなたは…一体…」

搾り出すようなアーロンの声に少しも動ずることなく、老人は言葉を続ける。



「見えなくなった途端に、触れられなくなった途端に、今までの信頼関係も失われてしまうとは、愛とはなんとも儚いもんじゃな…」

「あ、あ、あなたに何がわかる!!
あなたが僕達の何を知ってると言うんだ…!
僕達は…やっとこれから幸せになれる筈だった…なのに……!」



アーロンの脳裏には愛しいエリーナの血にまみれた痛々しい姿が思い出されていた。
普段は控えめであまり目立たない女性だったが、彼女は馬車にはねられそうになった子供を助けるため、自分の身を犠牲にする勇敢さを持っていた。
その夜、アーロンはエレーナと夕食の約束をしており、仕事の都合でアーロンは待ち合わせの時間にほんのわずか遅れた。
息を切らせたアーロンが待ち合わせ場所に着いた時、そこには黒山の人だかりが出来ていた。
俄かに襲い来る得体の知れない不吉な予感に、アーロンは身震いする。
人並みをかきわけ前へ進み出て行くと、アーロンはそこで今にも燃えつきそうな命の灯火をくゆらすエレーナの姿を目にした。

苦しい息の下…
「私はこれからもずっとあなたのことを見守ってるわ。」
時間をかけ、ただ、それだけを言い遺し、彼女は静かに旅立った…とても、満足そうな表情を浮かべて…



「なぜなんです!?
あなたにわかるなら、教えて下さい!
なぜ、彼女はあんな目にあわなければならなかったんです!」

アーロンの感情は高ぶり、その瞳からはいつの間にか熱いものが流れ出ていた。



「あんな目?エレーナは、それ程可哀想じゃと思うのか?」

「当たり前でしょう!
彼女はまだ若い!
それに彼女は幼い頃からいろいろと苦労をしていて、ようやくこれから僕と結婚して幸せになる所だった。
なのに……」

「年の問題なのか?
ならば、まだ幼い子供はどうなる?
その子供は死んでも可哀想ではないのか?
おまえさんには関係ないからどうでも良いということなのか?」

「そ、それは……」

アーロンはすぐには言い返す言葉がみつからず、ぎゅっと唇を噛み締めた。



「もしも、自分の目の前で子供が死んでいたら…彼女はどうだったじゃろう?
自分がなんともなかったことを喜んだじゃろうか?」

アーロンは、さらにきつく唇を噛み締める。
彼女が生真面目で責任感が強く、いつも自分のことよりも他人のことを気にかける優しい性格だということを知っていたから…
言い返せないもどかしさが、アーロンの涙をさらに溢れさせた。



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