ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



「おぉ…ここを訪ねる者はひさしぶりじゃな…」

「……そ、そんな……」

扉を開けた先は小さな部屋で、揺り椅子に座った老人が、アーロンをにこやかに出迎えた。



「どうかしたのか?
ずいぶんとがっかりして見えるが……」

老人はにこやかな表情を崩さず、アーロンに尋ねる。



「だ…だって、ここは…
ここは天国のはずじゃ…」

涙を流さんばかりの切羽詰った表情で、アーロンは揺り椅子の老人に詰め寄った。



「天国?
馬鹿なことを言うな。
ここはただの灯台じゃ、そして、わしは、この灯台守じゃ。」

「そ、それではあなたが僕を天国へ連れて行って下さるんですか?」

「まだそんなことを言うてるのか。
わしは灯台守じゃぞ。
灯台に灯りを灯すのがわしの仕事じゃ。」

「ですが、この灯台には火が灯っているのを見た者はいないと聞きました。」

「それは、おそらくその者が見たことがないだけの話じゃろう…
見たことがないから、灯っていないと思うただけじゃ。」

意味のわかりにくい飄々とした老人の語り口に、アーロンは戸惑いを覚える。



「僕はこんなに苦労して上ってきたのに…
ここが天国でもなく、あなたが天国への道案内人でもないとしたら、僕は今まで一体何のために必死になっていたのか……お笑いだ…
馬鹿げた伝説を信じてこんな所までやって来て…
……こうなったら、もう僕には一つしか道はない…」

アーロンは魂の抜け殻のような瞳を外へ向け、よろよろと歩き始めた。
扉を開ければそこに広がるのは青い海…その中へ身を投じれば、ほんの僅かの苦しみの後にすべては終わる。
アーロンの人生は幕を降ろし、それと引き換えに、アーロンは長く待ち望んでいた死を手に入れることが出来る。
アーロンが外へ通じる扉に手をかけた時、老人が声をかけた。



「そうしたいならそうすりゃええ。
今の季節なら海の水もそれほど冷たくはなかろう。
だが、その前に少しだけ話をせんか?
なんせ、おまえさんは久しぶりの訪問者じゃからな。
そうじゃ、お茶でも飲まんかな?」

「引きとめても無駄ですよ。
僕はもう決めたんだ…」

「引きとめる?
わしにはそんな気はありゃせんよ。
ただ、話がしたいだけじゃ。
おまえさんもそうじゃないのか?
何か一つくらい、誰かに話しておきたいことがあるんじゃないのか?
……どうじゃな?」

アーロンは扉の前でしばらく立ち止まり、そしてゆっくりと振り向いた。



「では、お茶を一杯ご馳走して下さい。」


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