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「あれ?林田が休みとは珍しいな。」
「課長、林田さんは、ほら、アレですよ。」
「アレ?……あぁ、アレな。
そうか、もうそんな時期なんやな。」
(……アレ?)
なんだろう?
アレっていうのが、すごく気になる。
だって、林田さんは私のひそかな想い人なんだもん。
*
「ねぇ、キヨピー…アレって何だと思う?」
「アレ?」
キヨピーは、卵焼きをつかんだまま小首を傾げた。
「うん、さっきね、課長が林田が休みなんて珍しいなって言ったら、小島さんが、林田さんはアレですよって…」
「あぁ、そのアレね。」
卵焼きはキヨピーの口の中におさまった。
「キヨピー、知ってるの?」
「知ってるよ。だんじりよ、だんじり。」
「だんじり…?何それ?」
「えーっ!あんた、だんじりも知らないの?」
キヨピーは教えてくれた。
だんじりとは、お祭りのことなんだ、と。
林田さんはそのお祭りが盛んな地域の出身で、そのお祭りの前後にはいつも有休を取るのだ、と。
「へぇ、お祭りなんだ。
私、見に行ってみようかな?
誰でも見れるんだよね?」
「見れるけど…激しいお祭りだから気を付けてね。」
「え?そうなの?」
お祭りと言ったら、お神輿が出て夜店が並んで…そういうものをイメージしてたのだけど、激しいって、どういうことだろう??
***
(わぁ!)
ネットで調べて、私はそのお祭りに出かけた。
人が多いだけではなく、その場の緊迫感みたいなものにドキドキしてたら、すごいスピードで最初のだんじりがやって来て…
その迫力に圧倒された。
しかも、動くだんじりの上に乗ってる人が、両手にうちわを持ち、踊るような動作で飛び跳ねていて…
(あっ!)
放心する私の目に映ったのは、林田さん。
林田さんが、次に来ただんじりの上で飛び跳ねている。
いつものスーツ姿とは違い、法被姿の林田さんは男らしくて、すごく格好良い!
なんだか、体が熱くなって来て、ライブに行ってるような感覚になってしまった。
まさに、惚れ直した感じだ。
その後も私のテンションは盛り上がり続け、勇壮なだんじり祭りが大好きになってしまった。
林田さんが仕事に来たら、勇気を出してごはんに誘ってみよう!
そして、今日のことを話すんだ!
だんじりのお陰で、内気な私に、積極的な気持ちがわきあがった。
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