第10章…side ブルー1
あれから、すでに二ヶ月近い月日が流れたが、あの男はあれきり店に姿を現さなかった。
「あの人、どうなさったんだろうね。
まさか、酔ってて覚えてないなんてことはないだろうね…」
「セドリックさん、もう良いです。
それよりも無駄なお金を遣わせてしまって、申し訳ありません。」
「そんなことはどうでも良いんだ。
それより、誰かあの小島まで船を出してくれる人を探してみたらどうだろう?
そうだ!早速、明日港に行って聞いてみないか? 」
「いえ…あれは、本当かどうかもわからない話ですから…」
あの男が約束を違えたことで、自暴自棄になっていた私はそう答えた。
本心はそうではなかったのだが…
「しかし、もし本当だったらどうするんだ!
君は今までずっと、彼のことを探してきたんだろう?
違ったら違ったで良いじゃないか…
あたるだけあたってみなさい。
もし良かったら私も一緒に行こうか?」
「ありがとう、セドリックさん。」
人間なんて自分勝手で醜い心をした奴ばかりだと思っていたが、こんなに善い人間もいるのだ。
見ず知らずの私のことを、本当の息子のように心配して気遣ってくれている…
彼の好意に私は胸が熱くなった。
不意に店の扉が開いたのはその時だった。
「やぁ、しばらく!
遅くなってすまなかったな!」
「あ、あなたは!」
「考えてたよりも、用事がはかどらなくてな…
本当にすまなかった。
俺は明日にでも出かけられるが、あんたの方はどうだい?」
「え、ええ、私ならいつでも…」
「そうか、じゃあ、明日の朝、出発で良いな!」
男の一方的とも思える話に乗せられ、私は次の日、ノワールがいると思われる小島に向かって出発することになった。
*
次の朝、男は時間通りに約束の場所に来ていた。
「じゃ、気を付けてな。
会えても会えなくても、すぐにうちに帰って来るんだよ。」
セドリックはわざわざ港まで見送りに来てくれた。
船は、滑るように港を離れた。
五日もすれば、小島に着くそうだ。
そうしたら、夢にまで見たノワールに会える…!!
遠くに見える小島に思いを馳せ、私は胸を弾ませていた…
- 82 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
中編集トップ 章トップ