第9章…side ノワール1


私は魚釣りにもだいぶ慣れ、ほんの僅かずつではあったが収入も増えてきていた。

少しずつでも金を貯めて、いつか大陸へ向かう船に乗せてもらおう。

この島を出て、パメラに広い世界を見せてやりたい。

こんなことを言ったらブルーは失望するだろうが、私は何としても彼を説得するつもりだ。

私はもう彼女と離れることは出来ないのだから…
自分でも呆れる程に、私は彼女を愛していた。
日を重ねるごとに彼女への愛しさが大きくなっていく…







「ノワール、だめよ…」

「いいじゃないか、少し位休んでも…」

私は畑仕事をするパメラを抱き締め、唇を重ねた。



「もうっ!ノワールったら…!」

彼女は口ではそう言いながらも、微笑み、私の接吻に応えてくれた。

彼女のそんな笑顔を見ているだけで、私の心は温かくなり、世界中で自分が一番幸せ者のように感じていた。




「……やはり、そういうことだったか…」




背中から不意に聞こえた低い声に、私は血の凍る想いを感じた。

振り返った先には、やはりあの男が立っていた…



「ジェローム!どうして、ここへ…」

「まさか、ここまで追いかけて来るとは思っていなかっただろうな…
確かに、ここに来るまでには相当な苦労をしたぞ…
だが、ついにみつけた…!!」

ジェロームの瞳の中にめらめらと燃える憎しみの炎を見た気がした。



「ジェローム…落ち着いてくれ…
これにはいろいろな事情があってな……」

「ノワール…なんという格好をしているのだ…
それに、その薄汚い女はなんだ…!
おまえともあろう者が、そんな女と口付けを交すとは…汚らわしい!!」

ジェロームは今にも彼女を殺してしまいそうな剣幕だった。



「パメラ…私は彼と少し話がある…しばらくの間、向こうへ行っていてくれないか…」

「なぜだ、ノワール?
その汚い女に私のことを紹介してはくれぬのか?
『私の愛しい男だ』と言ってはくれぬのか?」

ジェロームは私に近付き、ねっとりとした唇を重ねてきた。
私の肌をまさぐろうとする彼の長い指に、私は今まで感じたことのない嫌悪感を感じた。



「やめてくれ、ジェローム!」

私は反射的に彼の身体を突き放していた。


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