第7章…side ノワール12
ある晩、私は世話になったお礼を兼ねて、退屈しのぎにパメラに誘惑の手を差し伸べた。
こんな所にずっと一人で暮らしていたのなら、私の誘いを心待ちにしているに違いないと考えたのだ。
「パメラさん…」
私は、パメラの身体にそっと身を寄せた。
「やめて下さい!何をなさるんです!」
「あなただって、お寂しいのでしょう…わかっていますよ。
今夜は、私が存分に楽しませてさしあげます…」
「やめて下さい!」
パメラは、激しく抵抗した。
なぜだ?
なぜ、こんなにも激しく拒絶する?
最初は恥ずかしがっているのかと思ったが、彼女の抵抗はそんな生易しいものではなかった。
「パメラさん…素直におなりなさい…」
「やめてください!!」
彼女を引き寄せようと力をこめた私の頬をパメラの手が強かに打った。
「馬鹿にしないで!」
涙のたまった瞳で見据えられ、私は言葉を失った。
私は、これほどまでにまっすぐな瞳を見たことがなかった。
パメラは小刻みに身体を震わせながら、私の瞳から視線をはずさなかった…
「…申し訳ありません、パメラさん…」
私にはそういうのが精一杯だった。
私は部屋を出て、キッチンの片隅に腰を降ろした。
女にあんな風に拒絶されたのは初めてだったせいか、私の心の中はざわめいて落ち着かなかった。
その晩は眠れないままに朝を迎えた…
*
「……パメラさん…昨夜はすみませんでした…
私は……どうかしていました…」
「昨夜のことは、もう忘れました…
ノワールさんもどうぞお忘れになって下さい。」
パメラは私の方を見ずに、小さな声でそう呟いた。
私の心に罪悪感のようなものがあったせいなのかどうかはわからないが、私はそれから無意識にパメラの手伝いを始めた。
彼女は驚いたような顔をしていたが、何も言うことはなかった。
実際に身体を動かしてみて、彼女がどれほど大変なことをやっていたのかが身に染みてわかった。
「ノワールさん、無理はなさらないで下さいね。
あなたはきっとこういう暮らしはされたことがなかったのでしょう?」
「……ええ、実はおっしゃる通りです。」
「あなたのその指を見て、一目でわかりました。」
そう呟いたパメラの手は赤黒く荒れていた。
美しい宝石で飾る事もなく、この手はきっと働き詰めに働いてきたのだろう…
それを見た時、私の心のどこかがじわりと痛んだ…
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