第7章…side ノワール5
男はそう怒鳴りながら、なおも私に殴りかかってきた。
「ま、待て!
今、レティシアとか言ったな…
もしかして、君はブルーの知り合いなのか?
エスポワール一座の者なのか?」
私の言葉に男の動きが止まり、まじまじと私のことをみつめる。
「……あんた…ブルーじゃないのか?」
「あぁ…私はノワール。
ブルーは、私の双子の兄弟だ。」
「双子の…!
あんたがブルーの探してた双子の兄弟なのか…!」
「ブルーが、私のことを探していたのか?」
「あぁ…」
「君は、ブルーと同じ一座にいたんだな?
教えてくれ!ブルーに何があったんだ?」
「……ブルーは…どこかへ行ってしまったよ……」
(そうか…もうこの時点で、ブルーは一座を離れていたのだな…)
「そういえば、君はレティシアがなんとかいってたな?
ブルーはその娘と結婚したのか?」
「……ブルーは結婚式の日にいなくなった……」
「結婚式の日に?!
……良かったら、そこで飲みながら話さないか?」
どうやら込み入った事情があるようだと感じた私は、男を先程の酒場へ誘った。
その男はクリスだった。
そう、レティシアの夫とされている男だ。
クリスは酒を飲んでいるうちに少しずつ落ち着きを取り戻し、これまでのことを話してくれた。
ブルーは、この先の町の教会でレティシアと結婚式をあげることになっていたが、あろうことか結婚式当日になって姿を消したというのだ。
その後、皆で手を尽してブルーの行方を探したが、近くの港から船に乗ったことがわかっただけでその後の足取りについては何もわからなかったらしい。
レティシアはそのことでひどいショックを受け、八ヶ月で赤ん坊を出産したそうだ。
そして、赤ん坊を産んだ数日後にレティシアは死んだのだという。
「それは気の毒な話だな…
しかし、ブルーがそんな身重の女を置いて突然いなくなるなんて…
私には、信じられない話だ…」
クリスは潤んだ瞳をしながらさらに話を続けた…
「元はといえば俺が悪いんだ…」
「君が…?それはどういうことなんだ?」
- 62 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
中編集トップ 章トップ