第7章…side ノワール4


私は合わせ鏡の部屋に戻った。
ふと、床に小さな目盛りが刻まれているのに気付いた。
以前気付かなかったのは、おそらく長い年月の間に薄くなってしまったせいだろう…
この時代では、はっきりと見えている。
きっとこれが時の目盛りなのだと私は推測した。
アルフレッドはブルーがいなくなったのは約十年前だと言っていた。
一つの目盛りがどれ程の時に値するのかはわからなかったが、私は目盛り一つが一年なのではないかと考え、目盛り九つ分、鏡を移動させると、再び、乳白色の靄の中へ飛び込んだ。







部屋の様子はまるで変わった所はなかったが、胸ポケットがまた熱くなるのを私は感じた。



「オニキス、何かあったのか?」

『また少しブルー様に近付きましたね!』

「本当か!?」

詳しい年数はわからないが、私は、また時を越えたのだ。



今度は、アルフレッドの屋敷ではなく、ブルーがいなくなった町を目指すことにした。

行く先々で、私は町の者に一座のことを尋ねた。



「あぁ、あんたはあの一座の…!」

「いや、それは私の双子の兄弟のことだろう…
それで、一座がここに来たのはいつのことだ?」

「あんた、あの歌い手の双子の…?
道理でそっくりなわけだな。
あの一座が来たのは去年のことだよ。
あんな素晴らしいショウを見せてもらったのは初めてだったよ!」



(昨年……)

もう一度、ジェロームの屋敷に戻って過去へ戻るべきか?
しかし、もうずいぶんと離れてしまった。
一年程度の誤差ならわざわざ戻らなくともなんとかなるのではあるまいか?

そう考え、私はこのまま進むことにした。

町を移動する先々で、一座の話を聞くことが出来た。
私は、着実にエスポワール一座に…ブルーに近付いている…
そう実感していた。



(もうじきブルーがいなくなった町だ…)



そんなある日、私は一軒の酒場でワイングラスを傾けながら寛いでいた。



「き、貴様〜〜!!」

突然、私は見知らぬ男に胸ぐらを捕まれ殴りかかられた。

私は、男の拳をすんでの所で交わし、逆にその腕を後ろ手にねじあげた。
男はなおも暴言を吐きながら暴れたため、私はそのまま男を店の外へ連れ出した。



「一体、なんのつもりだ!」

「よくもそんなことが言えるもんだな!
おまえのせいで…おまえのせいで、レティシアは…」



(レティシア…?)


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