第7章…side ノワール1


あたりは漆黒の闇だった。
実際の所はよくわからなかったが、私にはほんの一瞬の事のように思えた。
瞬きをするかしないかの…
私は手探りでランプをみつけ、それに火を灯した。

部屋の中の様子は何も変わらない。
ただ、不思議なことについ今し方までそこにいたジェロームがいなくなっていたのだ。



「ジェローム!ジェローム!」

彼の名を呼んだが、あたりはしんと静まり返ったまま彼からの返事はなかった。

他の部屋ものぞいてみたが、そこにもやはり彼の姿はなかった。



(……どこへ行ったのだろう?)



私は長椅子に腰をかけた。
せっかく苦労して手に入れた鏡も何の役にも立たなかった…
やはり、魔術なんてものはただのまやかしに過ぎなかったのだ。

期待が失望へと変わり、全身の力が抜け去ったような気がする。
その時、ふと、胸ポケットの石が温かくなっていることに気が付いた。

私は、オニキスの入った皮袋をつまみ出した。



『おひさしぶりです、ノワール様。』

「そうだな…」

『相変わらず冷たいのですね。
せっかくブルー様に近付かれたというのに、少し位、嬉しそうな顔をして下さっても良ろしいのに…』

「なにっ?
それはどういうことだ!」

『申した通り…何の含みもありませんが…』

「ブルーに近付いたとはどういうことかと聞いているのだ!」

『……どう言えばわかって下さるのでしょうか?
ノワール様がブルー様に近付かれたから近付かれたと申しただけですが……』



オニキスの言葉に私は苛立ちを感じ、そして同時に私の頭にある想いが浮かんだ。



(まさか…!)

私は部屋を出ると地下通路を走り、隠し階段を登ったが蓋が重くて持ち上がらない。

私はあらん限りの力を込めて蓋を持ち上げた。

樽の転がる音が響き、蓋が勢い良く開いた。

あたりは薄暗い…

私は樽を元通りに置き直し、様子をうかがいながら蔵の外へ出た。

そこは当然ジェロームの屋敷だったが、どことなく様子が違う。

そうか…!
屋敷をびっしりと覆っている蔦がないのだ…!

私の心臓は高鳴った…!
オニキスの言った意味が理解出来た…!

私は時を遡る事が出来たのだ!!
あの鏡の力は本物だったのだ!!

詳しい状況はわからないが、屋敷の中は真っ暗で人の気配もまるでしない。
それは私にとっては都合の良いことではあったが…

まずはどこへ行くべきか…?
そう考えた時、私の頭には、あのエルマン・ド・ケイゼルの顔が浮かんでいた。


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