第5章…side ノワール16


「ノワール…おまえがこのまま目を覚まさないのではないかと心配したぞ。」

そう言ってジェロームは私の首に抱きつき、唇を重ねてきた。
押さえられた勢いで胸に痛みが走った。



「ノワール、どこか痛むのか…かわいそうに、こんなに傷付いて…
だが、これもすべてはおまえが悪いのだぞ…
おまえの帰りがあまりに遅いので、私はクラウディアの所に見に行ったのだ。
そしたら、おまえがあの醜いブタを……」

そう言いながらジェロームが私の腕を掴む。
腕が折れるかと思う程の痛みが全身に走った。



「おまえが私を裏切りさえしなければ、こんなことには…!」

「ジェローム、それは誤解だ。
私はただあの鏡がほしかっただけだ。
あんな女に、一欠片の愛情も持っているわけがないだろう。
私が愛しているのは、ジェローム…あなた一人だ。
鏡を持って帰れば、きっとあなたが喜んでくれると思って…ただ、あなたを喜ばせたい一心で……
それで、クラウディアのいいなりになっただけだ。
私だって、どれほど辛かったことか……」

そう言って、私は瞳を潤ませた。


「本当なのか、ノワール?
本当に、私だけを愛しているのか!?」

「もちろんじゃないか。
なぜ、あなたは私のことを信じてくれない!?
私があなたのことをどれほど愛しているかがあなたには伝わっていないのかと考えると、私は死にたい気分になってしまう…」

私は悲しそうに目を伏せ、さらに大げさな芝居を続けた。



「おぉ、ノワール……
そうだったのか……許しておくれ。
今後は決しておまえの気持ちは疑わない。
しかし、その代わりにおまえもどんな理由であれ、私以外の者と寝るのはやめてくれ、頼む……」

「わかった…約束しよう。
私だって、特別な理由がなければあなた以外の人と寝ようなんて思わない…
クラウディアのことだって、いやでいやでたまらなかったのだ。」

「そうか…そうだったのか…すまなかった。
ノワール、身体がよくなったらまた可愛がってやるからな…」

ジェロームの唇と舌が、私の顔や首筋をまるで生き物のように這いずりまわる。
彼のあの激しい暴行の原因は、嫉妬だったのだ。
これほどまでに、嫉妬深い人間だとは思ってもいなかった。



「ジェローム…それで、クラウディアは……」

「あの豚のことはもう心配しなくて良い。
醜い豚は私が土の中に葬った…
おまえに酷いことをした天罰が下ったのだ!」

「では、やはりあなたが…!!」

「ノワール…そんな目で私を見るのはやめておくれ。
私がこの手を汚したのは、すべておまえのためなのだぞ。
私がそこまでおまえを愛しているということなのだぞ。」

ジェロームは、私の顔を両手で包ながら、すがるような瞳で私をじっとみつめた。



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