第5章…side ノワール15


馬車が動き出し、その振動でクラウディアの身体がどさりと前のめりに倒れた。
まるで、人形のように……



「クラウディアさん、大丈夫ですか?」

クラウディアは返事をしないどころか、身動き一つしない。
私はいやな胸騒ぎを感じつつ、クラウディアの鼻先に手の平をかざした。



クラウディアは、息をしていない…!!
私は速くなる鼓動を押さえ、ジェロームに目を移したが、彼は私の顔を見ようともしなかった。


屋敷に着くと、ジェロームがまるで荷物かなにかのようにクラウディアの亡骸を担いでいく。



「ジェローム…まさか、あなたが……」

「ノワール、鏡を運んでおけ。傷付けないように慎重にな…」



ジェロームは私の問いかけには答えなかった。

私は彼に言われるままに鏡を部屋に運びこんだ。

この状況を考えると、クラウディアを殺ったのはジェロームに違いない。
クラウディアは悪魔のような女ではあるが、しかし、殺してしまうとは……
そんなことをしなくてもあとほんの少しで鏡は手に入るところまで来ていたというのに……

しばらくして、両手を土で汚したジェロームが部屋に戻ってきた。



「ジェローム…クラウディアは……」

私が話しかけた瞬間、彼の固い拳が私の腹に入った。
一瞬、息が詰まりそうになる。
考える間もなく、今度は顔を激しく殴られ、次には足で蹴られ踏みつけられ、さらには樫の木のステッキで何度も何度も繰り返し殴りつけられた。

口の中に血の味が広がり、あちこちに酷い痛みと不快な気分を感じる。
そのうち、痛みの意識がだんだんと薄れゆく中で、私は初めて「死」というものを身近に感じた。
執拗にうち据えられた私の身体は、もう彼に何一つとして反撃も出来ない…

今の私は無力な人間だ。
私はこのまま、彼に殴り殺されてしまうのだろう…
あのクラウディアのように……
しかし、なぜ……?


そう考えたのを最後に、私は何も感じなくなった……







「ノワール!気が付いたか!!」

私の目に映ったものは、涙を流すジェロームの顔だった。

目を覚ましたと同時に、身体のあちこちが痛むのを感じる。
まぶたがやけに重い。
ふと見ると腕には包帯が巻かれていた。

そうだ…私はジェロームに強かに痛めつけられて……

あの時の記憶がおぼろげに思い出される。


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