第5章…side ノワール5
「親近感を…ですか?
それはまたなぜ…?」
「実は、私の母は…あなたのお祖父様のブルー様との縁談があったそうなのです。」
「祖父とあなたのお母上が…?」
どうやら、私の片割れも相当な女たらしだったようだ…
元はと言えば、彼と私は同じ者なのだからそれも当然といえば当然なのだが…
私はこみあげてくる笑いを噛み殺した。
「ええ、祖父がブルー様のことをたいそう気にいっていたようで、遠縁に当たる母を養女に迎え、ゆくゆくはブルー様と母にこの家を継がせたいと考えていたようです。
ところが、ブルー様はすでに他の方とのご結婚が決まっていたようで、母は仕方なく他の男性と結婚し、この家を継いだのです。」
「そんなことがあったのですか。」
「祖父は音楽や芸術にとても傾倒しておりまして、ピアノの名手だった母と歌や楽器の天才のようなあなたのお祖父さんが結婚すれば素晴らしい孫が出来ると考えていたようです。」
「なるほど…それで、あなたは音楽はお好きではないのですか?」
「音楽は大好きなのですが…
残念ながら私は母の血は受け継がなかったようです。
幼い頃は遊びにも行かせてもらえず相当にしごかれましたが、ものにならないとわかると母は本当に冷たいものでしたよ。」
エルマンはそう言って、切ない笑みを浮かべる。
「そうだったのですか…」
「あなたは、音楽はお好きですか?」
「……まぁ、ほどほどには…」
「楽器は何か弾かれるのですか?」
「弾かないことはありませんが、たいした腕ではありません。」
天界ではよく弾いていたのだが、人間の楽器にはまだ触れたことがなかったのでそう答えておいた。
「では、歌は…?」
「歌は好きですよ。」
「おぉ、それは素晴らしい。
ぜひ一曲お聴かせ下さい。」
「……異国の歌でもかまいませんか?」
人間の曲も聞いたことはあるが、歌詞を覚えているものが浮かばなかったため、私はそのように答えた。
「ええ……構いませんよ。」
私はその場で立ち上がり、天界でよく歌っていた歌を歌った。
エルマンは目を見開き驚いたような顔をしていたが、やがて涙を浮かべながら私の歌に聴き入っていた。
とても感受性の豊かな男のようだ
歌が終わるとエルマンは上気した顔で立ち上がり、興奮したように激しく手を叩く。
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