第5章…side ノワール4
私は船を手放す決意を固めた。
とりあえず、ブルーの手掛りがみつかりそうなのは、ここと隣の大陸だとわかったのだから、船がなくともなんとかなるだろうと考えたのだ。
それから一週間程した頃、幸いなことに安い値ではあったが船を買い取ってくれる人物がみつかった。
これで、乗組員達への給料も支払える。
さらに、その人物が貴族だったことから、頭文字Kのこのあたりの貴族について尋ねた所、有力な情報が手に入った。
思い当たるのはケイゼル家という名門の貴族で、そこにはアルフレッドという人物がいたはずだというのだ。
私は早速、ケイゼル家を訪ねることにした。
町の郊外の閑静な地域にあるその屋敷は確かに立派な屋敷だった。
ラウルの屋敷と同じ位の…いや、それよりも大きいかもしれない。
面識も誰かの紹介さえもない私に会ってくれるかどうかが心配だったが、意外にもすんなりと屋敷の中へ通された。
しばらく待っていると、この屋敷の主らしき気品のある男性が現れた。
男性は私の顔を見るなり、はっとした表情で息を飲んだ。
「お待たせしてしまいました。
この家の主エルマン・ド・ケイゼルです。」
男性は冷静にそう言ったが、その視線は私の顔から離れない。
「初めまして。
私はノワールと申す者です。
いきなりで不躾なのですが、実は…」
私は持ってきたブルーの絵をエルマンに見せた。
「おぉ…この絵は…!」
「この絵はあなたのお祖父さんが描かれたものではないかと思って来たのですが、やはり…?」
「ええ、そうです。
これは祖父の描いたものに間違いありません。
どうぞ、こちらへ」
エルマンは、私を奥の部屋に案内した。
そこにはたくさんの絵があった。
描きかけのものもある。
どうやら、アルフレッドのアトリエのようだった。
「これは…」
私はそこで早速ブルーの絵をみつけた。
「この方はあなたの……?」
「祖父です。」
「道理で……
私はさっきあなたがあの絵の中から飛び出て来たのではないかとたいそう驚きましたよ。
髪の色だけが違うのですね。」
そう言いながら、エルマンは私の顔をまじまじとみつめる。
「そうなのです。
実は、先日ある偶然からこの絵に巡り合いまして、そしてこの絵を描かれたのがこちらのアルフレッド様だということをお聞きしまして、祖父のことをなにかご存知ではないかと思い訪ねて参ったのです。」
「そうだったのですか…
私もあまり詳しくは知らないのですが…ただ、あなたのお祖父様には私は昔から親近感を感じていたのですよ。」
- 40 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
中編集トップ 章トップ