第５章…side ノワール１
「マスター、その人のことを教えてくれ！
頼む！」
「……なんだか事情がありそうだな…
役に立つかどうかはわからないが…
じゃあ、今夜はこれで店じまいということにしよう。
どうせ客なんてめったに来やしないんだ。
ちょっと待っててくれ。
すぐに片付けるから、俺の家で話そう。」
そう言って主人は、店の片付けを始めた。
「…じゃあ、行こうか。
俺の家まではすぐだ。」
主人の言った通り、店からほんの少し歩いた所に彼の家はあった。
古いがそれなりに立派な門構えの屋敷だった。
「入ってくれ。
誰もいないから、遠慮しなくて良いぜ。
こっちの部屋だ。」
主人は私を奥の部屋へ案内した。
「こ、これは……！！」
私は思わず驚嘆の声をあげていた。
壁に飾られた数枚の絵が私を捕えて離さない…
その絵に描かれていたものは、まぎれもなく蒼い髪の私…
……そう、ブルーだったのだ。
絵の中のブルーは、金糸銀糸で刺繍の施された陳腐とも思える派手な衣装を身にまとった立ち姿だったり歌を歌っている…
美しい女性と寄り添っているものや、数人の男女と共に描かれたものもあった。
男女は皆、煌びやかな衣裳を身に纏っている。
おそらく、ブルーは旅回りの一座のようなことをしているのだろうと思えた。
ともかく、これがブルーであることに間違いはない。
「な、あんたとそっくりだろ？
もしかしたら、あんたの親戚かなにかなのか？」
「あ…あぁ、そうなんだ！
実は私の双子の兄弟なんだ。」
「双子の……？
そんなはずがあるわけないだろう！」
店主の表情が、不意に怪訝なものに変わった。
「いや、本当だ。
この絵を見てくれ。
私にそっくりではないか。」
「確かによく似てる…
本人だと言われても信じてしまうほどだ。
だが、そんなことはありえない。」
「なぜだ？
なぜ、そんなことが言い切れる？」
主人は、一枚の絵を指差した。
数人の男女が並んでいるものだ。
「これはクリス…そして、この別嬪がレティシア…
……俺の祖父と祖母だ…」
「……祖父と祖母……？」
「そうさ、二人共早くに死んじまったらしいが、今、生きてりゃ、とうに百を超えてる。
なんせこの俺がもうじき６０になろうかって年なんだからな。
つまり、この蒼い髪の男も、今、生きてりゃそのくらいの年になるってことさ。
あんたと双子のわけがなかろう…」
「そ、そんな……」
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