第5章…過去1


「ささ、ミカエル様、どうぞそちらへお座り下さいませ。
そうだ!ミカエル様、おなかはおすきではありませんかな?」

「僕…おなか、すいた…」

「ラビッツ、すぐに食事の用意をするのだ…!」

「はっ!」

ラビッツは宿の厨房に走り、マッハで食事を運んできた。



「うわ〜、おいしそう!!」

ラビッツの運んできた食事を嬉しそうに頬張るカパエルを見ながら、ルーファスはハンカチでそっと涙を拭った。



「ミカエル様、お召しあがりになりながらで構いませんから、よ〜くお聞き下さいませ。
良いですか、ミカエル様。
あなた様は北の大国・ノルディーナ王国の若君であらせられるのですぞ!」

「……ワカギミ…?」

「そうです。
あなた様は王子様なのでございます!」

「僕が、王子様…?」

「そうです!
何も覚えてらっしゃらぬのですか?
ミカエル様がお産まれになった、森と泉に囲まれたあの白亜の城のことをお忘れですなのですか…?」

「お城…?
僕が生まれた家は1DKのアパートで……」

「おかわいそうに…
カッパになられてからはそのような貧しき暮らしをなされていたのですな。
よく、お聞き下さい、ミカエル様!
あの時、我が国と敵対していた国のスパイが城の中に潜り込んだとの情報が入ったのです!
若様に何事かあっては大事!
そう思い、わしはあなた様をカッパの姿に変えたのです。
そうしておけば、たとえスパイがあなた様を見掛けようとも、まさか若様だとは思いますまい。
わし達はそれから懸命にスパイを探しまわり、ようやく捕えることが出来ました。
ホッとしたのも束の間、お部屋に戻ると、ミカエル様のお姿がどこにも見えなかったのです。
しばらくして、メイドの1人が、あなた様のことを野良カッパが勝手に部屋に入り込んだのだと勘違いして、窓からお堀に投げ捨てたというではありませんか!!
わし達はそれから手を尽してあなた様の行方を探しましたが、ようとしてみつからず、いつの間にかこんなにも長い歳月が流れてしまったということなのです…」

ルーファスは、涙と鼻水にまみれながら切々とこれまでの経緯を語った。


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