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「ジネットさん…あ、あの…これは…」
「…ひどい……」
立ち尽くすジネットの身体は小刻に震えていた。
「どうしたんだい?!」
膝を血に滲ませたサリーがその場の異変に気が付いた。
「……すみません、ジネットさん…」
ジネットはしゃがみこみ、顔を覆って泣き出した。
「ジネットさん…本当に申し訳ないことをしてしまいました。」
その場はこれ以上ない程に険悪な空気に包まれてしまった。
ジネットはレヴが差し出したハンカチを片手で払いのけ、走り去ろうとしたその時、ヴェールがジネットの腕を掴んだ。
「待って下さい!」
ヴェールの方を振り返ろうともしないジネットに、ヴェールは言葉を続ける。
「ジネットさん…
あなたがなぜ父の写真を…?」
(………父………?)
ジネットは自分の心臓が凍りついたような感覚を覚えた。
「ヴェールさん…今、何と…?」
「なぜ、あなたが私の父の写真を持っているのかと…」
「あなたのお父様……?」
泣き顔のジネットがヴェールに向き直った。
「なんだって?!
この方は君のお父上だというのか?」
「はい。
これは、私の父・ダニエルです。」
ジネットの凍りついた心臓に一気に大量の血液が流れ始める。
ジネットは、頭の中をどくどくと血が流れていくのを感じてた。
「で、では……まさか……
あ、あなたは、暗き森の…」
「そうです。
あの森で私は『案内人』と呼ばれていました。」
その言葉を聞くと同時に、ジネットは全身の力が抜けていくのを感じた。
「危ないっ!」
バランスを失ったジネットの身体をヴェールが抱きとめる。
「ジネット!大丈夫かい!」
ジネットにはサリー声が遥か遠くで聞こえたような気がした。
(……ヴェールさんが案内人さん…
それはすなわちヴェールさんが森の民の長ということ…
まさか、ずっと探していた方がこんなに近くにいたなんて…
それがヴェールさんだったなんて…
……あ!暗き森のあの小屋にあったカップのイニシャルは『V』
あれは…『ヴェール』さんの『V』だったのね…)
ジネットの頭の中には様々なことが去来する。
父の亡くなった日のこと…
森を出た日のこと…
マリアとの出会い…
手掛かりがなくて落ち込んだ日のこと…
「うっ…うぅっ」
ジネットの瞳からは熱い涙がこみあげる…
「ヴェールさん…!!」
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