「あらまぁ、可愛い黒猫さんだこと…」

ぽっちゃりとした手が、僕をそっと抱き上げた。
手と同様に肉付きの良いその胸もやわらかい。
僕は、中年の女性にされるがままに、少々きつい香水の匂う頬ずりを受けた。



この屋敷にも、やはり青い薔薇はなかった。
たいそう立派な屋敷の薔薇園は手入れもよく、どれも大輪の花を咲かせている。
赤、ピンク、黄色に白…
だけど、僕の探し求めている青い薔薇はどこにもなかった。



(さて、そろそろお暇するか……)



お屋敷の台所の片隅で、僕はひさしぶりに上等な肉とミルクをご馳走になった。
ここにいれば、毎日こんな食事にありつけて、きっと可愛がってもらえるだろう。
だけど、そうはしていられない。
そんなことをしていたら、本当の猫になってしまう…



そう…僕は元々は人間だった。
自分で言うのもなんだけど…僕は、人から愛される美しい容姿を持って生まれた。
お金にも不自由はなかったし、頭も悪くなかった。
そのおかげで、僕の人生はとても楽しいもので、それは一生続くものだと思ってた。



ところが、ある時、思いもかけなかったことが起こった。
いつものように軽い気持ちで付き合ってた女性の一人が、僕の家に押しかけて来たんだ。
僕は全然覚えていないのだけど、酔った勢いでその女性と結婚すると言ってしまったらしいんだ。
しかも、その女性は普通の女性じゃなかった。
なんと、魔女だったんだ。
僕は誠意を尽くして断ったつもりだったんだけど、魔女はそんなことでは納得しなかった。
僕は呪いをかけられ、黒猫の姿に変えられた。



「感謝しなさい。
あなたは元々が美しいから黒猫にしてあげたのよ。
それもとっても可愛い黒猫よ…
そうね…もしも、この世のどこかに咲くという、伝説の青い薔薇をみつけることが出来たなら、あなたは元の人間に戻れるわ。」

魔女はそう言うと、甲高い声でおかしそうに笑って、その場から姿を消した。



それ以来、僕は青い薔薇を探して、世界中を旅してる。
どこにあるのか…それ以前に、本当にあるかどうかもわからない伝説の青い薔薇を探して…



〜fin.

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