「あれ…まただよ。」

「本当だね。
なんだって、こんな所に…」

「しかも、なんでこんな季節に来るんだろう。
全く変わった蝶々だね。」

町を行き交う人々は、背を丸め、分厚いコートを身にまとっている。
そんな寒い季節に、花さえ咲かない草原を寂しく飛ぶ青い蝶々を、酒場の女達は不思議そうな表情でじっとみつめた。







「あれ?リリィはいないのか?」

「あぁ、リリィならやめたよ。」

「やめた?いつやめたんだ?」

「先月だったかねぇ…何も言わず突然いなくなっちゃってね。」

「そりゃあ残念だ。
良い娘だったのにな。」

それほどべっぴんというわけではなかったが、どこか幼く、愛嬌のある顔をしていたリリィは、酒場でも人気の娘だった。
歌は下手だが、明るく、聞き上手で、踊りの好きなリリィは、ある時、突然、店から姿を消した。



「少し前に店に来始めた男前にご執心だったからね。
多分、あの男とどっかに行ったんだろうよ。」

「へぇ、そういうわけか…もう一度、あのダンスが見たかったなぁ…」

リリィは、踊ってる時が一番幸せだとよく言っていた。
腕を大きく伸ばし、長い髪を振り乱しながら、軽やかなステップで床を踏み鳴らす…
踊ってる時は、まるで蝶々にでもなったみたいな気がすると、リリィは機嫌の良い笑顔を浮かべて話していた。



やがて、時が流れ…誰もがそんなリリィのことなど忘れてしまった頃……



店の近くの空き地で、骨と化した女性の遺体がみつかった。



空には、あの時と同じ、季節を忘れた青い揚羽蝶が飛んでいた…





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