「わぁ…綺麗〜!」

「本当に綺麗ね!」

私達は立ち止まり、あたりの光景に目を細めた。



小学校へ続く道の途中には、春を強調する桜並木があった。
さやさやと風が吹く度に、ピンクの花びらがはらはらと舞い踊る…
悠太の片方の手は主人と、そして、もう片方の手は私と繋がれ、真新しい空色のランドセルを背負い、誇らしげな笑みを浮かべていた。



「お友達いっぱい出来るかな?」

「出来るよ、きっと。」

「僕、いっぱいお勉強するんだ!」

「それは楽しみね。」



小学校の校門の前には、悠太と同じような子供と親で溢れていた。
皆、今日の空と同じような晴れやかな笑顔を浮かべている。



「えっと……」

「悠太、3組はこっちだ。」

悠太は、教室に入ると、自分の名前の書かれた席に座った。



「ママー。」

席に着いた悠太が、不安そうな顔で私達の方を振り返る。



「悠太、ちゃんと座ってないとだめでしょ?」

「ママ…どうして僕の席だけお花があるの?
他の子の席にはないよ。」

私と主人は思わず顔を見合わせた。



「そ、それはね…悠太が特別良い子だからよ。
このクラスで一番の印なの。」

「そうなの?なんだ…そっか〜…」

悠太の顔に笑みが戻った。



本当のことは言えるはずがない。



悠太はまだ子供だし、しかも、あの時は眠ってたから、あの子が気付かないのも無理はない…



悪い予感なんて、欠片程も感じなかった。
早起きして、ちょっと遠くのテーマパークまで向かって、一日中楽しく過ごした。
よほど疲れたのか、帰りは車に乗った瞬間から悠太は私の膝に頭を載せて眠ってて…
そんな悠太を見ながら、私もついうとうとしかけた時のことだった。
主人の大きな声ではっと我に返ると、目の前には大きなトラックが迫っていて……



何かを考える暇さえなかった。
ほんの一瞬で、私達親子の人生は終わった。



思い残すことはいっぱいあるけれど、ただ、悠太が怖い想いや痛い思いをしなくて良かったと思う。
何も知らないまま、逝けて良かった。



今しばらく、私達は、この嘘を吐き通そう。
悠太が真実に気付くその日まで……



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