「本当にお世話になりました。
あなた方のお蔭で、体調もすっかり良くなりました。」

二人の家は森のすぐ傍にありました。
その先は高い山々に囲まれ、その山を越えないと町には行けないということでした。
二人は、モニカとニコラという双子の姉妹で、両親は二人がまだ小さい頃に亡くなり、親代わりだった祖母も数年前に亡くなって、それからは二人っきりで暮らしているということでした。
二人は、アーベルをとても親切にもてなしました。
そのおかげでアーベルもすっかり元気になり、二人の家に厄介になっているのも申し訳ないのでそろそろ旅立とうと考えました。



「アーベルさん、何をおっしゃるんです。
やっと元気になったばかりじゃないですか。
そんな身体であの山はとても越えられませんわ。」

「その通りです。
あの山は見た目以上に険しいのです。
せっかく助かった命をまた危険にさらされるおつもりですか?」

二人にそう言われ、アーベルはもう少し二人の家に留まることにしました。

しかし、一か月が経ち、二か月が経ち…アーベルがそろそろ旅立とうとする度に、二人はなんだかんだと理由をつけては、アーベルを引き止めました。
気が付けば、アーベルが二人の家に来てからもう一年近い時が流れていました。

その間に、アーベルの心にも変化が起きていました。
アーベルは、双子のことが好きになっていたのです。
最初はあまり気が付きませんでしたが、二人は見た目はそっくりでしたが、性格はだいぶ違ったものでした。
姉のニコラは常に冷静で、妹のモニカはそれとは逆でとても感情的でした。
アーベルは、時には子供のように率直で可愛らしいモニカにひかれ、またある時は、アーベルが話す愚痴のようなつまらない話にもいやな顔ひとつせず、じっと話を聞いてくれるニコラにひかれました。
そんな想いは、双子達も同じでした。
モニカもニコラも、いつの間にか本気でアーベルのことを愛していたのです。

二人はアーベルにその想いを伝えました。
そして、アーベルにどちらかひとりを選んでほしいと頼んだのです。
しかし、日を追うごとにふたりは辛い想いに心を痛めるようになりました。
選んでほしい気持ちはやまやまですが、もしも自分が選ばれたら、選ばれなかった方が悲しむ…そのことを考えると二人の胸は張り裂けそうになりました。
やがて、二人はすっかりふさぎ込み、部屋からも出てこなくなりました。


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