(一体、どうなってるんだ!?この森は…)



アーベルは、腰かけた岩の上で苦しい息を整えました。

アーベルは遠い国からやって来た旅人でした。
好奇心旺盛なこの青年は、この世界の隅から隅まで旅をするという大きな夢を持ち、もう何年もの間、あちらこちらを自由気ままに旅していました。
そして、偶然に入ったこの森で、アーベルは迷ってしまい、もう十日も出られなくなっていたのです。
食料は底を尽き、アーベルは仕方なくそこらの木の実を採って飢えをしのぎました。
しかし、深刻なのは喉の渇きでした。
川や泉がみつからないのです。
このままでは死んでしまう…アーベルはもうそんなところまで追い詰められていました。


その時です。
アーベルの耳に、美しい女性の歌声が聞こえて来たのです。
アーベルは力を振り絞って立ち上がり、その声の方に足を進めました。



(あ……)



アーベルの瞳に、美しい少女の姿が映りました。
ひとりは海のような青いドレスを、そしてもう一人は太陽のような赤いドレスを身にまとっており、二人とも金色の長い髪をしていました。



「あ、あの…すみません。」

アーベルのかけた声に、二人が同時に振り向きました。



「あっ!」

アーベルは思わず声をあげてしまっていました。
なぜなら、二人の顔はとても良く似ていたからでした。
二人もアーベルを見て、驚いているようです。



「どうかなさったのですか?」

「お顔の色が悪いですわ!大丈夫ですか?」

二人はアーベルのことを心配しているようでした、
アーベルは、このところの事情を話しました。



「まぁ!それは大変!」

「ニンフの仕業ね…」

二人に聞いた所によると、その森はニンフの森で、森に入る時には必ずニンフに声をかけなければならないとのことでした。
何も言わずに入った者は、ニンフの魔法で森から出られなくなってしまい、中には命を落としてしまう者もいるとのこと。
アーベルはすぐにニンフに向かって声をかけました。
そして、二人に泉まで連れて行ってもらいました。
今までどれほど探してもみつからなかった泉は、すぐ傍にあったのです。
二人は、身体の弱ったアーベルを気遣い、家に来るように誘いました。
アーベルは、その申し出を受けることにしました。


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