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「美沙子、起きろよ。」
「なぁに?」
けだるそうに美沙子が身体を起こした。
「なぁ、なんかここってかまくらみたいだと思わないか?」
「……そうね。」
美沙子の返事には少しも気持ちが入ってなかった。
「気も持ちようは大切だっていうぞ。
無理にでも楽しいことを考えてると、身体にも影響するらしい。」
「そうなんだ。」
「だから、エアーかまくらしようぜ!
な、ここはかまくらの中で俺達はそこで、雑煮を食ってることにしよう。」
「……私、ぜんざいの方が良いな。」
「うん、わかった!じゃ、そうしよう!」
ほんの少しだけれど、美沙子の顔に生気が戻ったような気がした。
「おっ、おいしそうなぜんざいだな。
でっかい餅が入ってるぞ、どれどれ。」
俺は、ありもしない器を持ち上げ、ぜんざいを食べる仕草をした。
美沙子がわずかに微笑み、俺と同じような仕草をする。
「おいしいね!」
「うん、最高だ。
身体が芯から暖まる。」
「まだまだあるから、一杯食べようね。」
そう言った美沙子の笑顔に胸が切なくなった。
「そうだね…」
「雪の中って本当に暖かいんだね。
お腹が膨れたらなんだか眠くなってきちゃった。」
「……俺もだよ。」
俺達は、並んで横になった。
「ごめんな、美沙子……」
それから、早くも八年の時が過ぎた。
俺と美沙子の亡骸は、いまだあの雪洞の中で眠っている。
〜fin.
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