「知的」



彼の姿を一言で表すなら、その言葉程、ぴったりなものはなかった。
長い睫がかすかに動き、銀縁の眼鏡の奥から文字を追う。
片手に持った文庫本はおそらく純文学…
彼の真剣なまなざしに、私はあらためて恋をしてしまう…



「和臣君、ごはん出来たよ。」

「え?あ、ありがとう!」



顔をあげ、しおりをはさんで本を閉じ、彼は眼鏡をはずして私の方へ歩いて来る。



「わ、今日もおいしそう…!」

私の隣に座り、食卓に並んだ料理を見て、彼は穏やかに微笑んだ。



「あ、この煮つけ、良い味だね。」

一口食べて、彼は早速料理の味を褒めてくれた。
いつものことだけど、やっぱり褒められると嬉しい。



「ねぇ…なに、読んでたの?」

「うん、ラノベ…」

「ラ、ラノベ?」

ちょっと意外だった。
でも、考えてみれば、彼はどんなものでも読むって以前言ってた。



「新人さんなんだけどね。
すっごく面白いんだよ。」

「へぇ、そうなんだ。
なんて作家さん?」

「えっと……ん?誰だっけ??」

彼は立ち上がり、眼鏡と本を持って戻ってきた。



「えっとね…」

隣に座る彼の開いたページに、作者の名前が書いてあった。
彼は眼鏡をかけ、それを読む。



「あ、立川雅人だね。」

「和臣君、視力いくつ?
そんなに目、悪かったっけ?」

彼はふだんは裸眼なのに、どうしてこの字が見えないのかな?



「……老眼だよ、老眼。」

私より一回り年上の彼は、ちょっと不機嫌な顔をして、そう言った。


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