1
「知的」
彼の姿を一言で表すなら、その言葉程、ぴったりなものはなかった。
長い睫がかすかに動き、銀縁の眼鏡の奥から文字を追う。
片手に持った文庫本はおそらく純文学…
彼の真剣なまなざしに、私はあらためて恋をしてしまう…
「和臣君、ごはん出来たよ。」
「え?あ、ありがとう!」
顔をあげ、しおりをはさんで本を閉じ、彼は眼鏡をはずして私の方へ歩いて来る。
「わ、今日もおいしそう…!」
私の隣に座り、食卓に並んだ料理を見て、彼は穏やかに微笑んだ。
「あ、この煮つけ、良い味だね。」
一口食べて、彼は早速料理の味を褒めてくれた。
いつものことだけど、やっぱり褒められると嬉しい。
「ねぇ…なに、読んでたの?」
「うん、ラノベ…」
「ラ、ラノベ?」
ちょっと意外だった。
でも、考えてみれば、彼はどんなものでも読むって以前言ってた。
「新人さんなんだけどね。
すっごく面白いんだよ。」
「へぇ、そうなんだ。
なんて作家さん?」
「えっと……ん?誰だっけ??」
彼は立ち上がり、眼鏡と本を持って戻ってきた。
「えっとね…」
隣に座る彼の開いたページに、作者の名前が書いてあった。
彼は眼鏡をかけ、それを読む。
「あ、立川雅人だね。」
「和臣君、視力いくつ?
そんなに目、悪かったっけ?」
彼はふだんは裸眼なのに、どうしてこの字が見えないのかな?
「……老眼だよ、老眼。」
私より一回り年上の彼は、ちょっと不機嫌な顔をして、そう言った。
- 105 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
戻る 章トップ