シルバーウィーク?
世間は五連休だなんだって浮かれてるけど、私にはそんなことは関係ない。



真っ暗な森の中、私は死に場所を求めて歩いているのだから…
私にはもうなにもなかった。
馬鹿な男に騙されて、長年コツコツと貯めて来た貯金を取られ、私にはお金も生きる気力ももうなにもなくなっていた。



良く考えればわかるはず。
こんな何も取り柄のないアラフォー女をあんなイケメンが愛することなんてないんだ。
なのに、私は気付かなかった。
本当に愛されてると信じ…
すべてを捧げた…
そして、なにもなくなると、ぼろ雑巾のように捨てられた。



愚かすぎて、自分で自分がおかしく思えて来る。



せめて、一番好きなコスモスの花を見てから死のう…
そんな小さな希望さえ叶えられなかった。
盛りは鬱蒼とした下草が茂るばかりで、コスモスなどどこにも咲いてはいなかった。



(最期の最期までツイてないのね…)



少し拓けた場所に出て、私は薬の入った小瓶を取り出した。
これを全部飲み干せば、きっと私は死ぬだろう…



さようなら…
何も良いことのなかった私の人生…



震える手で蓋を開けた。
その時、一陣の風が吹き、小さな花びらが舞い踊った。
雲間からは丸い月が顔を出し、あたりを明るく照らし出す。



コスモス……
そこには、可憐なコスモスが、不自然なまでに咲き誇っていた。
白やピンクや赤の花々が、優しい風に揺れ、月明かりの下で無邪気に踊っている。




「私をなぐさめてくれるの?」

思わず私はコスモスの花に手を伸ばした。
涙が溢れて視界を曇らせる。
その涙を拭い、私はあたり一面のコスモスに目を移す。



聞いたことがある。
コスモスは華奢な見た目とは裏腹に、やせた土地でも生きることの出来るとてもたくましい花なのだと。



(私も、あなたみたいに強くなれるかしら?)



涙はまだ止まらない…
だけど、今日の計画は中止に出来そうだ。
私は薬の瓶を力いっぱい投げ捨てた。



(また一から出直しね…)



私は赤いコスモスにそう語りかけた。


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