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「さてと…一段落したことだし、お茶でも飲んで、少し休憩しようか。」
「じゃあ、俺、何か買って来ます。」
岡田が駆け出した。
新人だけど、積極的でもあり、とても気が利く子だ。
岡田の帰りを待つ間に、他の部下がコーヒーを淹れる。
しばらくすると、大きな紙袋を抱えた岡田が戻って来た。
「お待たせ!」
デスクの上に、岡田が紙袋を置き、その袋を引き裂いた。
「焼き芋って…マジかよ!」
「暖まるし、芋にはけっこう栄養あるって聞いたことがあったので…」
さすがは岡田だ!
私の大好物を知ってるなんて、あんたはエスパーか!
ひさしぶりの愛しの焼き芋との対面に心が躍っていた時、森下が口を挟んだ。
「岡田…考えろよ。
近藤チーフが焼き芋なんて食うはずないだろ?
ねぇ…近藤チーフ…?」
「え…?そ、それは…」
そりゃあ、私は仕事が出来るよ。
だからこそ、このプロジェクトのチーフをやらせてもらってる。
見た目もしゅっとしてる方だと思う。
だから、焼き芋とはイメージが合わないかもしれないけど、でも、好きなんだ…私は焼き芋がこの世で一番好きなんだ〜!!
「ほら見ろ、お前が変なもの買って来るから、チーフが困ってらっしゃるじゃないか。
ほら、近くにマカロンの店があんだろ?
あれ買って来い。」
なに?マカロンだと?
そんなものはいらん!
私はこの芋で良いんだ!
芋を食べさせてくれ!
「はい…近藤チーフ、すみませんでした。」
岡田は暗い顔をして、また外へ飛び出した。
「おい、これはおまえらで始末しろ!」
森下はそう言って、焼き芋の袋を若手の方へ押しやった。
「ま、待て。」
思わず止めてしまった私を、森下が怪訝な顔でみつめる。
「近藤チーフ…何か?」
「せ、せっかく岡田が良かれと思って買って来てくれたんじゃない。
皆で食べようよ。」
「チーフ、無理しないで下さい。」
「いや、こんなにあるんだし…もったいないから。」
私はそう言いながら、一本の芋を手に取った。
このことから、図らずも私の株はまた上がってしまった。
部下想いの優しい上司だと。
私はただ、芋が食べたかっただけなのに…
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