1
*
「そんな無茶な話があるか。
残念だが諦めるんだな…」
「諦めるだと!?
俺が、デートにこぎつけるまで、どれだけ苦労したと思ってるんだ?
そんなに簡単に諦められるか!」
「だが、夏祭りに行ったら、それまでの苦労も水の泡と消えてしまうと思うが…それでも良いのか?」
「く、くそーーーーー!」
マサルは、テーブルを力任せに打ち付けた。
「任せておけって。
あとはこの僕がうまくやってやるから。」
「おい、ミツル…変な気起こしたら、おまえだからって容赦しないからな。」
「馬鹿なことを言うな。
僕には最高のハニーがいるんだぜ。
マユミに手なんか出すわけないだろ。」
「いや、おまえはいいかげんだからな。
信用出来ん!」
「それなら、お前が行ったらどうだ?
そして、なにもかも失えば良いんだ。
僕はせっかく好意で助けてやろうって言ってるのに…」
「くっ…」
ミツルの言葉に、マサルは唇をきつく噛みしめた。
「す、すまなかった。
ミツル…マユミのこと、よろしく頼む…」
「あぁ、わかったよ…」
*
「やぁ、マユミちゃん!」
「あ、ミツルさん……あれ?マサル君は?」
マユミはあたりをきょろきょろと見渡した。
「実は、さっき、マサルのお父さんが倒れてね…
あいつ、今、病院に着いて行ってて…
それで、あいつの代わりにマユミちゃんのエスコートを任されたんだ。」
「そんなことが…それで、お父さんは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だとは思うけど、あいつは本当に親思いだから…」
「そうなんですか…」
「じゃあ、行こうか。
今夜は僕をマサルだと思って、何でも言ってよね。
あ、ヨーヨー釣り、しようか?」
「え?あ…はい。」
*
(畜生…なんでこんなことに…)
空に浮かんだ真ん丸な月を見上げながら、マサルは遠吠えをした。
彼の全身はびっしりと固い毛で覆われ、その耳は大きく尖り、口元には鋭い歯が並んでいた。
そう、マサルは狼男だったのだ。
何度ふられても諦めずにアタックを繰り返し、ようやく取り付けた夏祭りデート…
だが、その晩は満月だった。
マサルが唯一、人間ではなくなる日だ。
そこで泣く泣く、マサルは友人のミツルにデートの代役を頼んだのだった。
(ちくしょーーーー!)
再び、哀しき遠吠えが町の中にこだました。
- 77 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
戻る
章トップ