「そんな無茶な話があるか。
残念だが諦めるんだな…」

「諦めるだと!?
俺が、デートにこぎつけるまで、どれだけ苦労したと思ってるんだ?
そんなに簡単に諦められるか!」

「だが、夏祭りに行ったら、それまでの苦労も水の泡と消えてしまうと思うが…それでも良いのか?」

「く、くそーーーーー!」

マサルは、テーブルを力任せに打ち付けた。




「任せておけって。
あとはこの僕がうまくやってやるから。」

「おい、ミツル…変な気起こしたら、おまえだからって容赦しないからな。」

「馬鹿なことを言うな。
僕には最高のハニーがいるんだぜ。
マユミに手なんか出すわけないだろ。」

「いや、おまえはいいかげんだからな。
信用出来ん!」

「それなら、お前が行ったらどうだ?
そして、なにもかも失えば良いんだ。
僕はせっかく好意で助けてやろうって言ってるのに…」

「くっ…」

ミツルの言葉に、マサルは唇をきつく噛みしめた。



「す、すまなかった。
ミツル…マユミのこと、よろしく頼む…」

「あぁ、わかったよ…」







「やぁ、マユミちゃん!」

「あ、ミツルさん……あれ?マサル君は?」

マユミはあたりをきょろきょろと見渡した。



「実は、さっき、マサルのお父さんが倒れてね…
あいつ、今、病院に着いて行ってて…
それで、あいつの代わりにマユミちゃんのエスコートを任されたんだ。」

「そんなことが…それで、お父さんは大丈夫なんですか?」

「大丈夫だとは思うけど、あいつは本当に親思いだから…」

「そうなんですか…」

「じゃあ、行こうか。
今夜は僕をマサルだと思って、何でも言ってよね。
あ、ヨーヨー釣り、しようか?」

「え?あ…はい。」







(畜生…なんでこんなことに…)



空に浮かんだ真ん丸な月を見上げながら、マサルは遠吠えをした。
彼の全身はびっしりと固い毛で覆われ、その耳は大きく尖り、口元には鋭い歯が並んでいた。



そう、マサルは狼男だったのだ。
何度ふられても諦めずにアタックを繰り返し、ようやく取り付けた夏祭りデート…
だが、その晩は満月だった。
マサルが唯一、人間ではなくなる日だ。

そこで泣く泣く、マサルは友人のミツルにデートの代役を頼んだのだった。



(ちくしょーーーー!)

再び、哀しき遠吠えが町の中にこだました。

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