紅葉デート
「わぁ…なんて綺麗!」
「まるで魔法使いが悪戯でもしたみたいだね。
いや、とびっきりおしゃれをさせたような感じかな?」
翼君と出かけた紅葉狩り。
ハイキングコースをゆっくり上って行くと、あたりには普段とは違う木みたいに見える紅葉した木々が群生し、私達の目を楽しませてくれた。
頂上近くの展望台から見る景色は、それはもう圧倒的な美しさだった。
「あぁ、なんかすっごく感動した!」
「うん、僕も…
来て良かったね!」
空は高く、青く澄んで、少々肌寒いのも山歩きにはちょうど良い。
私達は、山のおいしい空気と共に紅葉を楽しんだ。
「ねぇ、翼君…
どうして紅葉は紅葉狩りっていうんだろうね?
食べ物じゃないのに…」
「それはね、平安時代の貴族が、紅葉の枝を手折ってたからだって聞いたよ。」
「えっ!じゃあ、その頃の貴族は紅葉を食べてたの?」
「そうじゃないよ、カナ。
手折った紅葉の枝を見ながら、歌を詠んでたって話だよ。
風流だね。」
「そ、そうなの…!?」
いつもはおとぼけな翼君が珍しくまともな薀蓄を話してくれて…今日はえらく格好良く見えた。
「あれ?あそこ、なんだろう?」
麓近くに戻って来たら、「紅葉汁」ののぼりと小さな露店が目に映った。
「紅葉汁だって。
食べて行こうか。」
私達は、ベンチに並んで腰かけて、温かい紅葉汁をいただいた。
「おいしいね!」
「うん、ほくほくだね。」
最初はにこにこしながら食べてた翼君…
途中から、なんだか様子がおかしくなって来た。
そして、ついに私の方に向き直って……
「ねぇ…カナのには入ってた?」
「え…何が?」
「何がって…やだなぁ…紅葉だよ。」
「えっっ!!」
まさかまさか……
翼君…あなた、紅葉汁には紅葉の葉っぱが入ってると思ってたんですか!?
「さっきから探してるんだけど、見あたらないんだよねぇ…」
翼君は、お箸で残り少なくなった紅葉汁をかきまわず。
「そ、そう?」
ど、どうしよう。
紅葉汁に紅葉なんて入ってないのに…
なんで、紅葉狩りの薀蓄は知ってるのに、そんなこと知らないの!?
「も、もしかしたら知らないうちに食べちゃったんじゃないかな?
き、きっと小さく刻んであるんじゃない?」
「あ、そっか〜…
そうかもしれないね。」
翼君は、私の下手な嘘にあっさりと納得し、残りの紅葉汁をさらっとたいらげた。
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