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「か、か、架月!!ど、どうしてここに?」

「どうしてって…今日は5時までバイトだよ。」

「5時まで?」

私が時計を見上げると、5時5分前だった。



「ケーキ取りにこないから心配したよ。
あ、そうだ!昨日はありがとうね!」

「ありがとう…って、何が?」

「何って、ライブ来てくれてたじゃない。
でも、すぐに帰っちゃったんだね。残念だったよ。」

「え………?
わ、わ、私は…昨日はライブ行けなかったんです。」

「またまたぁ…来てたじゃない!
ステージから客席は見えないって思ってんの?
1曲目ですぐにみつけたよ。昨日はすごくおしゃれしてきてたよね?
あ、僕が手振ったの、気付かなかった?」

「う、うそ…」



(本当に?それじゃあ、あれは本当に私に向かって手を振ってくれてたの!?)



ただそれだけのことだけど、私の胸はいっぱいだった。
感動のあまり、私の瞳からは涙がこぼれそうになり、それを隠そうとして私はサンタに背を向けた。



(そ、そうだ…!!
明日、誘ってみよう!
架月…明日は予定がないって言ってたし…
これはすごいチャンスよ!
頑張れ…頑張れ、雪美!
勇気を出して架月に言うのよ!
明日、会えませんか…って!)

何度もそう自分に言い聞かせ、私は再び振り向くと、下を向いたままで声を絞り出した。



「も、もし、良かったら、明日、会っていただけませんか?!」

何を勘違いしたのか、私はそう言うのと同時に片手を差し出してしまっていたが、その手に触れる者は誰もいなかった。



(……あれ?)

恐る恐る顔をあげると、そこに架月の姿はなかった。
街を行き交う人とケーキを引き渡す係りのおじさんが、不思議そうな顔で私を見ている。



「あ…あの…
サンタさんは…?」

「え?、あぁ、サンタさんね…
さっき帰ったよ…今日は用事があるって言ってたけど、5時になったらすっ飛んで帰って行ったよ。」

「えええーーーーーっっ!!」



(……もしかして、私ってものすごくカッコ悪い奴?!
空気に向かって話してた…?)



いたたまれない気持ちになって、私はその場を逃げ去った。







(う、うげっ!)



家に帰った私は気付くのだった。
今日もまた架月にすっぴんを晒してしまったことを……



(な、なんてこった……しかも、あんな間近で……
でも…架月、私のこと気付いてくれてたんだね…すっぴんだったのに、わかってくれたなんて、やっぱり嬉しい…!!)

落ち込んだと思ったら、またすぐに立ち直り、私は早速ケーキの箱を開いた。



(ふふふ……)



頭に浮かんだ嬉しい記憶に、私はケーキを食べる手を休めて、愛香に送ってもらった写メを開き、微笑む架月に向かって心の中で語り出した。



(ありがとう、架月!
突然だけど、私、架月に報告したいことがあるんだ。
私ね…来年から本格的に漫画家を目指すよ!
架月の歌聴いて、気持ちが固まった。
実は、私ね…昔から漫画描くのが好きでね…中学生の時までは漫画家になるって言ってたんだ。
でも、いつの間にかその夢を忘れてた。
「好きなだけで漫画家になんてなれない」とか「好きなのと職業にするのは違う」なんて言うのが「大人」なんだと思ってた。
まだ何もしてないくせに…私って馬鹿みたい…
でも、架月のおかげで、私、やる気が出た!
やってみもしないで夢を諦めるなんていやだ。
だから、私、頑張ってみるよ!
根性ないからへこたれてしまうかもしれないけど、でも、一応やってみる!
くじけそうになったら架月のCD聴いて、ライブに行くよ!
そして、今の自分にもっと自信がついたら、本気で架月に告白するから!覚悟してろよ〜!!
あ、女磨きも頑張るからね!)

長い呟きに、私は満足げに微笑んだ。



(あ……雪……)



窓の外に白い雪が舞っている。
まるで、白い花びらのような粉雪が…


(架月…お母さん達と楽しいイヴを過ごしてるかな…?
メリー・クリスマス!架月!!)



心からの祝福と共に、私は大きな口でケーキのいちごを頬張った。




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