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「……どうしたの?
なにかあった?」
「……あ…あ…あの…」
「具合悪いの?」
「あの……もしかして…私…寝てますか?」
「え……?
どういうこと…?」
「あ…あの…あなたは…まさか…か、か、か、か、か」
まるで、針が飛んだレコードみたい…びっくりしすぎて私はうまくしゃべれなくて…
「……家まで送ろうか?
それとも、病院行く?」
「か、か、架月!!」
「えっ!?なんで知ってるの?」
「だって、私…ずっとあなたのファンで…で、でも、変だわ!
架月が私のことを知ってるわけないし…
あ、もしかしたら、ドッキリ?!」
私はきょろきょろとあたりを見まわした。
「何してるの?」
「どこかに隠しカメラがあるはずだわ!」
「そんなもの、あるわけないじゃん!
本当に君は変わってるね。」
架月はくすくすと笑っている。
「だって、そうじゃないと…」
「あ!わかった!!」
「な、なにが?」
「僕、サンタだよ。
昨日、君とぶつかった…」
「ええええ〜〜〜〜っっ!!」
「やっぱり、気付いてなかったんだ…」
「だ、だって、サンタさんはひげもまゆげも真っ白で…」
「ねぇ、君…本当に僕のファン?ファンだったら僕の声でわかるんじゃないの?」
「そ、そんな…わかりません!
ふだん、しゃべったことなんてないし…
第一、架月…さんがサンタしてるなんて夢にも思わないし。」
「あ…それはそうだね…
僕がサンタのバイトなんてしてたら、夢が壊れるよね…」
「いえ…そ、そ、そんなことないです。
でも、なんでサンタのバイトなんか…
架月さんはお金持ちなのに…」
私がそういうと、架月はちょっと寂しそうに笑った。
「カレー、冷めるから、食べながら話そうよ。」
架月の話はとても意外なものだった。
噂では、メンバー全員が重役や社長の息子だということだったのだが、実は、架月だけはそうではなかったということを私は初めて聞かされた。
バイトをしているのも、なんと!弟と母親にクリスマスプレゼント買うためだという。
「弟にはゲーム機って決まってるんだけど、母さんにはまだ何を贈るか決めてないんだ。
どんなものが喜ばれるんだろう…?
毎年、悩んじゃうんだよねぇ…」
(信じられない…架月って、まるで昭和の孝行息子って感じじゃない?
マジですか?)
「……もしかしてイメージ壊れた?」
「そ、そんなことないです!」
「あ、この話…みんなには黙っててくれる?」
私は何度も頷いた。
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