「そういうわけじゃないんだけど…予約してもらえたらちょっとだけボーナスがもらえるんだ。」

「そうなんですか…
じゃ、頑張って下さいね!」

「うん、頑張るよ!
コーヒー、どうもありがとうね!」

サンタはずっと手を振ってくれた。
何度か振り返って見てみると、サンタはまだ手を振っていた。



(……変な人……)



家に帰り、私はお弁当を食べながらケーキのチラシを見た。
そこそこ有名なお菓子メーカーのケーキは、どれもそれなりにおいしそうには見えたけど、一人でホールケーキなんて買っても仕方がない。
甘いものは大好きだから、ホールケーキだって食べられないってことはないのだけど、この大切な時期にホールケーキなんて食べて不必要なカロリーを採ってどうする!?
出来ることなら少し痩せておきたい所なのだけど、それはどうも無理そうだから、せめて今より太らないように気をつけなくてはいけない時期だもの。



(あ、これなら…)



ふと目に留まったのは、ブッシュ・ドノ・エル。
これなら、ホールケーキよりは小さいから、当然、カロリーも少ないはず…
そんなことを考えながら、すでにケーキを買う気になっている自分に呆れてしまう。



(ま、確かにぶつかったのは私が悪かったんだけど…
それに髪も誉めてはくれたけど、私だってコーヒーあげたし…そこまですることないか…うん、そうよね。)



私は、チラシをまるめてゴミ箱に投げ込んだ。







次の日も、昨日と同じ理由をつけて同じ時間に会社を出た。
残念ながら、私の髪が変わってることにも皆気づいていないのか、何も言われることはなかった。
そのことには少々がっくりしながらも、今日は、予定表通りに洋服を買いに行くことに決めていた。



(あ…いた…!)



昨日と同じ場所にあのサンタがいた。
でも、サンタの様子がちょっとおかしい。
何度も腰のあたりをさすってる。



(もしかして、昨日ぶつかった時に…)



「あ、君は昨日の…」

「あ、あの…もしかして、腰、痛いんですか?
それって、昨日ぶつかった時の…」

「違うよ。きっと冷えたせいだよ。
君のせいじゃないから。」



(違う…!絶対、私のせいだ!)



「今、帰り?昨日と同じ時間だね。」

「あの…私、ケーキの予約に…」

腰を悪くしてしまったっていう罪悪感からか、私はそんなことを口にしていた。



「えっ?!マジ?」

「マ、マジです!!」

言ってしまった以上、もう引っ込みがつかなくて、私にはそう言うしかなかった。



「嬉しいな!じゃ、こっちに来てくれる?」

私は、片隅の小さなテーブルの上で予約カードを書いて引き替え券を受け取った。
しかも、なぜだかブッシュ・ド・ノエルではなく、いちごの乗った生クリームのクリスマスケーキを予約してしまった。



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