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「ちょっと!
何探してるんです!?
僕ですよ。ぼーく!
あなたの足元にいるザルですってば!」
「ザ、ザルがしゃべった!!」
イスがしゃべる事には驚かなかったくせに、桃太郎はザルがしゃべったことにはなぜだか大袈裟に驚き、腰を抜かしました。
その瞬間、桃太郎の腰のきびだんごがひとつころころとザルに向かって転がっていきました。
その途端、ザルは目にも止まらぬ早業でそのだんごの上に覆い被さりました。
ザルに動きはありませんでしたが、かすかな音が響きました。
「……おまえ、桃太郎さんのきびだんごを食ったな…」
「ぼ…僕は何も…」
桃太郎がザルを持ち上げると、そこにきびだんごはありませんでした。
「きびだんごを食ったら、鬼退治にお供しなくちゃならないんだぞ!」
「えーーーーっ!お、鬼退治に〜!?」
イスの話にザルは驚いた様子です。
(おかしい…
あまりにもおかしい…)
普通の神様は、この光景に大きな疑問を感じました。
なにしろ、共に口も目もないイスとザルが向かい合ってしゃべっているのですから。
しかし、先程はザルがしゃべったことにあれほど驚いていたくせに、桃太郎はイスとザルが会話をしていることには特に何の違和感も感じていないようでした。
「では、行こうか。」
唐突な桃太郎の言葉に、イスとザルもなにもなかったように着いて行きます。
すると、空の彼方から桃太郎達の方に向かってなにかが飛んで来ました。
「な、なんだ!?
紙切れが飛んでるぞ!」
イスは目もないくせに、まるでそのものを見ているかのように声を上げました。
「ばっきゃろー!
誰が紙だ!
生地だよ、生地!」
「生地…?」
「そうさ、なにやらうまそうなにおいがしたもんで、飛んで来たんだ。
そのにおいはあんたのその腰に着けたもんだな。
それを俺にくれよ。」
「あぁ、構わん。」
桃太郎ももう同じことを何度も言うのが面倒くさくなり、きびだんごを空に向かって放り上げました。
生地はそれをうまく受け取ると、その身体でぎゅうっと包みこみました。
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