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「……嘘だ…そんなこと…
だって、おかしいじゃないか!
たった一年のためだけに、残りの寿命を全部賭けるなんて…そんな馬鹿馬鹿しい事をする奴なんているもんか!」
俺がそう言い終えた直後、亀田の手の平が俺の頬を強かに殴った。
「おまえに何がわかる!
こんな良い所に住んでうまいもん食って、女騙して金を巻き上げて面白おかしく暮らしてる奴に、僕の気持ちがわかるもんか!」
亀田の激昂ぶりは相当なものだった。
俺は、あまりの剣幕に何も言うことが出来なかった。
「あんたと一年間も入れ替わることが出来るなら、僕はもう思い残すことなんて一つもないね…」
亀田の口許に冷たい笑みが浮かんだ。
「でも…」
「さぁ、そろそろ帰ってもらおうか。
あんまり遅いとさっきの若い奴が怪しむだろうからな。
これが僕の家の地図と家の鍵だ。
そんなに遠くはないからすぐにわかるさ。
……そのままってわけにはいかないな。」
亀田は自分の着ていた趣味の悪いトレーナーとジャージのズボンを脱いで俺の前に放り投げた。
「それに着替えろ。早くしろよ!」
亀田に急かされ、俺はまだ温もりの残るその服に着替えた。
亀田はその代わりに俺が着ていたローブを羽織る。
「良いねぇ…
僕、ローブなんて初めてだ。」
「……こんなこと、うまくいくもんか…
ホストの仕事が端で見るよりずっと大変な仕事だってことが、すぐにわかるだろうぜ。」
「……あんたもな。」
俺達は部屋を出た。
「剣さん、お食事出来てますよ。」
「ありがとう。」
「…あの…その人の分も用意しましょうか?」
「いや…彼はすぐに帰るそうだ。
あ、すまないが彼に少し金をやってくれ。」
「え…?!」
「昨夜、ちょっと世話になったんでな。」
「あぁ、そうなんですか。」
リュウは、俺が預けてる財布の中から3万を抜き取り、俺の前に差し出した。
「剣さんが世話になったんだってな。ありがとうよ。」
俺はその金をはたき落とし、そのまま家を後にした。
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