(そんなぁ……)



てるてる坊主のばかやろう!
昨夜の天気予報で今日は朝からずっと雨だって言ってたから…
だから、私は遠足前の子供みたいに、てるてるぼうずを作って窓に吊るした。
なのに、外は予報通りの雨…
空は真っ暗でとてもやみそうにない。



(あんまりだぁ……)



準備万端整った旅行鞄…
私はこれを持って、彼の所へ行く筈だったのに…



きっと、私ほど、織姫さんの気持ちがわかる女は他にはいない。



(私は、まさに、地上の織姫なんだもん…)







「な、なに、それ!?」

「だって…そのくらい本気でやらなきゃ、絶対無理だよ!」



彼が仕事をやめ、もう一度、夢だった弁護士を目指すと言い出したのは五年前。
だけど、弁護士の夢はそう簡単なものじゃなかった。
司法試験は三年連続不合格。
そのうち貯金も底を着き、彼は実家に戻り、私とも会わずに勉強だけに専念すると言い出した。
その上、織姫さん達みたいに七夕の日だけ会おうって決めたて、当然、雨だったらその日の会わないって宣言した。
普段からメールも電話も出来ず、ただただ七夕に会えることだけを信じて待ってる私に、今日の雨は無情過ぎる……!



(あぁ、だめ!
我慢出来ない!)



私は鞄を手に、駅に向かって雨の中を走り出した。







「まぁ、織絵さん!
どうしたんだい?」

「こ、こんばんは。」

彼の実家に着いたのは、もう夕方。
相変わらず、こっちでも雨は振り続いてて……



「今日は雨だから会わないんじゃなかったのかい?」

「そうなんですが…私、どうしても会いたくなって……」

「そうだったのかい。
すまないねぇ…憲二がおかしなことを言い出して……
憲二は、今、友達とカラオケに行ってるんだよ。
今、車を出すから。」







「すみません。ご迷惑をおかけして。」

「いやいや、謝るのはこっちの方だよ。
あんたのことをほったらかしてすまない。
だけど、あの子も必死なんだ。
早く合格してあんたと結婚するんだって、そりゃあもうとりつかれたように勉強ばっかりしててね。
今日も友達に頼んで、無理に連れ出してもらったんだ。
あんなに勉強ばかりしてたら、身体がもたないからね。」

「え…憲二さんがそんな事を…!?」


一年ぶりに会った彼はげっそりと痩せていた。
そして、今年こそ絶対合格するって言いながら、私を抱き締めてくれた。



「うん、私、信じてる!
でも…あんまり無理はしないで。」

「わかったよ……」

その晩は、みんなで朝まで歌い続けて……
憲二さんの晴れ晴れとした笑顔に見送られながら、私は家路に着いた。



今年こそ合格!
それを信じて、私は遠くから彼を応援する!



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