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「美幸、どうした?」

「あ、兄さん、今どこ?」

美幸の声はまるで緊張感を持たないものだった。



「どこって…家だけど……」

「なぁ〜んだ…もう帰っちゃったのか〜…
店長さんがね、良かったらお母さんとゆっくり食事でもして来なさいって、早めに休憩時間にしてくれたの。」

その言葉に俺はほっとして胸を撫で下ろした。



「そうだったのか。
美幸、母さんが店に行った時、店長さんに良いこと言われたのか?」

「うん、くすぐったくなるくらい誉められた。
よく働くとか真面目とか知識が豊富だとか礼儀正しいとか……
だから、母さん、機嫌良さそうだったよ。
そんなことより、兄さん、昨夜、母さんにはシュウのことをどんな風に言ったの?
あ、今、母さん、近くにいる?
話しにくい?」

「いや、今は大丈夫だ。
実はな……」

俺は、昨夜、母さんに話した作り話を美幸に話して聞かせた。



「なるほど…うまいこと考えたね。
母さんはそのことを信じてそう?」

「それはなんとも言えないけど、全く信じてないってことはないと思う。
実はな、美幸……良いニュースがあるんだ。」

「え?何?」

「母さん、さっき家に戻った。
なんだか急に帰るって言い出して……」

その時、美幸の電話の向こう側から男の声が聞こえた。



「青木さん、お母さんが来られたよ。」

「か、母さんが……」

それと同時に電話が切れた。



母さんが…!?
……やられた!
やはり、あれは母さんの芝居だったんだ。



(畜生!)



俺は、すぐさまハイヤーに迎車を頼む電話をかけた。



「シュウ、俺、ちょっと出かけて来る!」

「どうかしたんですか!?」

「母さんに出し抜かれた!」

俺はそれだけ言うと、玄関に向かい、車の到着を待った。

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