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小さな扉の前で、僕は弾んだ息を整えるために大きく深呼吸をした。
吐き出した息と共に、少し気分が落ちついたのを感じながら、僕は静かに扉を開いて小部屋の中に足を踏み入れた。



まだ鼓動が速い…



箱の傍に身をかがめ、僕はゆっくりと蓋を持ちあげた。



「やぁ…」



おかしなことをしていることは自分でもよくわかった。
僕は普段あまり冗談を言う方でもないのに、なぜそんなことを言ったのか…



人形はこの前見た時と少しも変わらず、窮屈な箱の中で眠っていた。



(……綺麗だ……)



僕は、思わず人形の顔にまとわりついていた一筋の髪の毛に手を伸ばしていた。
その手に触れた頬と髪の感触は、生きている人間のものにとても近く、僕は咄嗟にその手を引っ込めた。



心臓が口から飛び出してしまいそうな程、胸が高鳴る。
僕は、放心したように人形をじっとみつめ、そして…再び、その手を伸ばした。
ひんやりとして滑らかで…僕の頬とはまるで違うその感触が心地良く、僕は何度もその頬をさすり続けた。



(きっと、女の人の肌はこんな感じなんだろうな…
髪もとってもしなやかだ…
何で作ってあるんだろう…?
……もしかして、本物の女性の髪?)



どこか少し怖いような…そして、後ろめたいような気持ちを抱きつつも、僕は人形のその感触に夢中になっていた。



(こんな窮屈な所じゃ、この子も可哀想だ…)



僕は、人形の半身を抱き起こした。



(あ……)



起こした人形の瞳が開き、深い湖のような青が僕の方を見据えた。
その表情は、たとえようもない程に悲しく…今にもその大きな瞳から涙の粒が零れ落ちて来るのではないかと思えた。



「どうして…
君はどうしてそんなに哀しい瞳をしているの?
……可哀想に……可哀想に……」

僕は思わず人形の身体を抱き締めた。
固くて冷たい人形の身体を…
それが、おかしなことだということはわかってる。
だけど…それでも、僕はそうせずにはいられなかった。
彼女を少しでも慰めてあげたかったんだ。


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