59
*
「楽しかったねぇ…」
「本当にきれいな所だったよね。」
夕方になり、散策から戻ったダルシャ達の乗った馬車が別荘の敷地に着いた。
「ダルシャ!」
見知らぬ金髪の女性が、大きな声を張りあげ、ダルシャに向かって駆け出したかと思うと、真っ直ぐにその胸に飛び込んだ。
「……マリエル…?マリエルなのか?」
「久しぶりね!何年ぶりになるかしら?」
女性は周りにいる者達のことはまるで気にもならないかのように、ダルシャだけをみつめていた。
「そうだな…もうかれこれ…十年…いや、それ以上か?
君が嫁いでから会うのは初めてじゃないか?」
「マリエル!ひさしぶりだね!」
「まぁ、マキシム!ひさしぶり!」
「あなた、マリエルなの?」
「まぁ、リュシー叔母様まで…!」
(ねぇ、セリナ…あの人、誰なんだろう?
綺麗な人だね。)
(なんだか、ダルシャ達の知り合いみたいね。
幼馴染みかしら?)
マリエルと呼ばれる女性は、夕食の席にもダルシャにぴったりと寄り添って現れた。
「皆にも紹介しておこう。
彼女はマリエル。
彼女の家はうちのすぐ傍で…つまりは幼馴染みというやつだ。
マリエル、ここにいるのは私の友人だ。
彼女がセリナ…そして…」
マリエルは、皆の紹介にもあまり関心はない様子で、ずっとダルシャの顔ばかりみつめていた。
「彼女が結婚してからは、ずっと会ってなかったのだが…」
「ダルシャ、私、今は独身なのよ!」
「え…それでは……」
マリエルは少しも悪びれた様子はなく、大きく頷く。
「元々、愛情なんてなかったんですもの。
ダルシャ…知ってるでしょう?
私は小さい頃からあなたが好きなのよ。
だけど、あなたがはっきりしてくれないものだから、両親に無理矢理……」
ダルシャは、何も言わずただ小さく肩をすくめた。
- 760 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
トップ
章トップ