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「……フレイザーには話してないのね?」
「わ…私は妊娠なんてしてない……
するはずがないんだ!
私は、昔、ずっと子供が出来ない薬草を飲んでたから……
そう…絶対に違う。これは、体調が悪いだけで……」
「ジャネット……どうしてなの?
あなた達は結婚するんでしょう?
子供が出来たって、何の問題もないはずよ。」
「だ、だめだ!
私は子供なんて産めない!
もしも、本当に妊娠してたら…子供は堕ろす…」
「馬鹿なことを言わないで!
どうしてそんなこと考えるの?
フレイザーが子供はいらないって言ってるの?」
ジャネットは俯いて首を振る。
「フレイザーはそんなこと言わない……
リュシーさん……私の事情は知ってるんだろう?」
「え…えぇ、だいたいのことは……」
「私は、獣人とのハイブリッドだ。
だから…怖いんだ。
もしも、生まれた子が獣人だったら、どうする…!?
そんな子を人間の町では育てられない。」
「だったら、うちの使っていない別荘に良い場所があるわ。
自然に囲まれたとても良い場所なんだけど、不便過ぎて、誰も行かなくなったの。」
「……そんな迷惑はかけられない。
子供のせいで、人里離れた場所に隠れて住むなんて…
それに、私達はダルシャと一緒に旅をしてたってだけで、親戚でもなんでもないんだ。
そんな迷惑なこと……」
リュシーは、ジャネットの手をそっと握った。
「誰も迷惑だなんて思わないわ。
うちがいやなら、アルディさんの村や…ほら、エルフの里に行くってことも出来るんじゃない?
セリナやお母さんもそこにいるんだし…
だから、そんなことは何も心配しなくて良いのよ。」
「……リュシーさん……」
ジャネットは涙でいっぱいになった瞳をリュシーに向けた。
「だから……」
「私……不安なんです。」
「え…?」
「もしも、生まれた子供が獣人だったら……
フレイザーは、その子を本当に愛してくれるだろうかって……」
リュシーは、その言葉に意外にもくすくすと笑い始めた。
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