44






(親父の奴……)



昔のことを話し終え、イリアスは満足そうに部屋を後にした。
残されたラスターは、初めて聞いた両親の話に乱れる心を無理に押さえていた。



(親父が泣いた所なんて、初めて見た。
親父…そんなにあの女のことを……)



今までとは別人のような父親の姿に、ラスターはまだ戸惑っていた。
何かと言うと、ラスターに向かって悪態を吐き、暴力をふるい、邪魔ばかりする悪魔のような父親だったはずなのに、さっき目の前にいたのは後悔を素直に表現するごくありきたりな男だった。
その変貌ぶりにラスターはまだ納得がいかなかった。

ただ母親に似てるというだけで、拒絶されるばかりか、その憎しみを一心に受けて来た昔の記憶がラスターの脳裏をかすめる。
どれほど慕っても、どれほど想っても、少しも報われなかった絶望の日々……



(畜生…!二人ともつまらない嘘に踊らされやがって……)



父親に対する恐怖や憎しみが消えたわけではなかったが、同情にも似た想いがわきあがるのをラスターは感じていた。



(出会ったのがあんなところじゃなかったら、二人は…そして俺だってもっと幸せに暮らせただろうに……)




思い出すのは、惨めだったスラムでの暮らしのこと。
誰もが金がなくゆとりがなく、だからこそ、少しでも幸せになろうとする者がいたら、皆、互いに邪魔ばかりして……



『やっぱりあんなところで暮らしてたせいで、心まで腐ってたんだな。』



先日のイリアスの言葉が、ラスターの脳裏を駆け巡る。



ベッドに寝転びながら、ラスターは混乱した心の中と向き合いながら、様々なことを考えていた。
次から次にわきあがる想いをひとつひとつ片付けて……



「すみません〜!」



数時間の後、ようやく考えのまとまったラスターは廊下にいる使用人に向かって声をかけた。



- 745 -

しおりを挟む
コメントする(0)

[*前] | [次#]

トップ 章トップ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -