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「カルヴィン、皆さん…本当に世話になりました。」
次の日の朝早く、五人は皆に見送られ、滞在した村を離れようとしていた。
「……セリナ、どうしたんだろう?」
「良いじゃないか、セリナはお母さんのことで忙しいんだ。
きっとまだ眠って……」
「待って〜〜!」
けたたましい叫び声と共に駆けて来たのはそのセリナだった。
「セリナ…!」
「なんだ、その恰好は……」
「何って…どこかおかしい所でもある?」
セリナは旅支度をするかのように、背中に大きな袋を背負っていた。
「……じゃあ、カルヴィン……
私がいない間、母様のことをよろしくね。」
「わかっていますよ。」
カルヴィンは驚く様子もなく、にっこりと微笑んだ。
「セリナ…まさか、私達と一緒に行くつもりなのか?」
「当たり前じゃない。
ジャネットの花嫁姿を見ないでいられるはずがないでしょう?」
「でも……」
「母様のことなら大丈夫。
……ここはどこよりも一番安心な場所だから。
さぁ、行くわよ!」
セリナの号令に、皆の足も突き動かされるように進み始めた。
「セリナ…すまないな、私なんかのために……」
「違うわ。私が見たいのよ。
あの男みたいななりをして、ラスターよりもひねくれ者だったあなたが、ウェディングドレスを着たらどんな風になるんだろうって……」
「セリナは時々すごく口が悪くなるんだから……」
ジャネットは肩をすくめて苦笑する。
「本当のことよ。
全く、あの頃のあなたときたら……」
「あぁ、もうわかったからやめてくれ!」
二人のそんなやりとりを他の者達はにやにやしながら、みつめていた。
「あ…そのペンダント…!」
「セリナ、知ってるのか?」
「ペンダントがどうかしたの?
あ…それ……」
エリオットも、ようやくバグゥアのペンダントに気付いた。
「ダルシャがくれたんだ。」
「ダルシャったらいつの間に……
でも良かったわね。」
「……うん。けっこう気に入ってるんだ。」
ジャネットはそう言って、幸せそうに微笑んだ。
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