30
*
「カルヴィン…世話になったが、私達は明日、ここを発とうと思う。」
「そうですか。寂しくなりますね。」
エルフの里に来て、一週間ほどが経ったある日の夕食の席で、ダルシャがカルヴィンに別れを切り出した。
「これからはセリナの事もよろしく頼む。」
カルヴィンは微笑みながらゆっくりと頷いた。
「この数日間で、セリナはお母さんの世話がうまくなりましたね。
それに、セリナに世話をしてもらってお母さんもなんだか嬉しそうですね。」
「ねぇ、カルヴィン……
セリナのお母さんがセリナのことを思い出すようなことは、この先もないのかな?」
「……それは私にもわかりません。
突然、思い出されるかもしれませんし、一生、あのままかもしれません。
それは誰にも分らないことでしょうね。」
「思い出したら良いのになぁ…」
「でも、思い出したら、自分の身に起こった怖いことも思い出すんだぜ。
自分が石の巫女だってことも…
思い出すことが幸せとは限らないんじゃないか?」
ラスターの言葉に、エリオットはただ深くうなだれるだけだった。
「感じ方は人それぞれです。
まだどうなるかもわからないことを考えても仕方ありません。
今は、あのお母さんと素直に向き合うだけ…それで良いのだと思いますよ。
セリナにはもうすでにそのことがわかってるようですし……」
「……そうだな。さすがはセリナだ。」
「あぁ…でも、なんだか寂しくなるな。
ここに、セリナを探しに来て…一緒に旅に出て何年か経って……
そして、またここで別れるのか……」
ラスターの言葉に、皆の脳裏にも数年前のこの場所での出来事が鮮明によみがえる。
「……本当に寂しくなるね……」
エリオットの瞳には、すでにきらめく涙が溜まっていた。
- 731 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
トップ 章トップ