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「さぁ、お口を開けて。」
次の朝から、セリナはエルフの女性に教わりながら、母親の食事の介護を始めた。
「そうそう。
とても上手に食べられたわね。」
母親の世話をするセリナを他の者達は、複雑な心境でみつめる。
「セリナ、これからどうするんだろう?」
「昨夜は、ここでお母さんの世話をするって言ってたよ。」
「そうか、それが一番だろうな。
それじゃあ、セリナとはここでお別れということになるな。
次は、ラスターの……」
「俺は後で良い。」
「え…しかし……」
「次はあんたの家だ。それで決まり!」
ラスターは、きっぱりとそう言い切った。
「……それは良いが、そうなると君の家に行くのは少し遅くなるぞ。
家に戻ったら、今度はフレイザーとジャネットの結婚式の準備をしなくてはならんからな。」
「えっ!結婚式って…アルディのところでやったじゃないか。」
「あれは獣人の結婚式だ。
今度は人間のをやらんとな。
……それはそうと、ジャネット…どうした?体調でも悪いのか?
少しも食べてないじゃないか。」
「あ、あぁ……セリナのことがちょっとショックで……」
「馬鹿だな、おまえがショックを受けることはないだろう?」
ぽんと背中を叩くフレイザーに、ジャネットは力なく笑みを返した。
「それでは、次はうちへ帰ることにしよう。
家に戻るのは気が重いのだが、君達が一緒で、しかも、結婚式となると両親もそううるさくは言わないだろう。」
「酷いな、俺達を連れて帰ってどさくさに紛れて戻るつもりか。
それはそうと…あのことはどうするんだ?まだ誰にも話してないんだろう?」
「……今回は素直に話すことにするよ。
黙っていてもバレないだろうが、話してしまった方が気が楽だ。」
「そうかもしれないな。」
ラスターは意地悪い笑みを浮かべた。
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