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「セリナ……」
夕食が済んだ後、セリナの姿が見えないことに気付いたエリオットは、あたりを見て回り、広場の片隅に座り込むセリナの姿をみつけた。
「エリオット……あ、ごめんね。
心配かけちゃったかしら?」
「ううん、心配なんてしてないよ。」
二人はどこかぎこちなく微笑みを交わした。
「……何してたの?」
そう言いながら、エリオットはセリナの隣に腰を降ろした。
「ちょっとした心の整理…みたいなものかしら?」
「あ…ごめんね。
ボク、邪魔しちゃったかな?」
「そんなことないわ。」
二人は何も言わず、空を優しく照らす二つの月をぼんやりとながめた。
「ねぇ、エリオット……母様のこと、どう思った?」
「え?……どうって?」
「感じたことをなんでも教えて。」
「感じたこと……?
え…えっと……あ、うん。綺麗な人だね。
セリナとそっくりってわけじゃないけど、二人ともとても美人だね。」
「そう?ありがとう。
私、やっぱり父親似なのかしら?」
「そうだね。女の子は父親に似ることが多いらしいからね。」
「じゃあ、エリオットも父親似なの?」
「ボクは母親似だとおも…あ……いや、どうかな?
そ、それにしてもこの場所は落ち着くね。」
辻褄の合わないことをつい口にしてしまい、焦ったエリオットは、無理に話を逸らした。
「……本当はね、すごくショックで…悲しかったの。」
「え…?あ…そ、そりゃあそうだと思うよ。
誰だって、そう思うと思うよ。」
「でもね…さっき、食事を食べさせてもらってる母様を見て、それからベッドで眠る母様を見たら……
これで良かったんだって思えたの。
母様…とてもおいしそうに食事をして、まるで天使みたいな寝顔ですやすやと眠ってた。
母様にはもう怖いものも悲しいことも辛いことも何もないんだって、はっきりとわかったの。」
「セリナ……」
セリナは、草むらの上に寝転び大きく手を広げる。
「私ね…これからは、母様の事を私の子供だと思って世話をしていこうと思うの。
そりゃあ、時には昔の母様のことを思い出して悲しくなることもあるかもしれない…
でも、何も出来なくても、今の母様は身体も健康だし……何よりも安心で幸せなんだもん。
それが一番よ…ね?」
「……うん、そうだね。
セリナの言う通りだと思う。
セリナのお母さんは、幸せなんだもん。
それが一番だよ!」
エリオットは、溢れそうになる涙をセリナに気付かれないように、高い空を見上げた。
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