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「彼女はここへ来た時からこんな状態でした。
あちらこちらにたいそう酷い怪我をしていました。
銀色の髪を見て、もしやあなたのお母様ではないかと推測しましたが、それを本人に訊ねることは出来ませんでした。
おそらく、彼女はとても恐ろしい目にあわれたのでしょう。
ここに着いた時は皆のことを怖がり、泣いたり叫んだりするばかりでした。
しばらくして傷が癒えていくのと同時に、少しずつ落ち着きを取り戻されましたが、彼女はまるで生まれたばかりの子供のようになってしまわれた。
彼女には会話をすることは出来ません。
身の周りのことも何も出来ません。
おそらく、記憶もなくされているのではないでしょうか?」
「そ、そんな……
それじゃあ、母様は…母様は実の子である私のこともわからないっていうの!?」
カルヴィンは、ゆっくりと深く頷き、セリナはその場にへなへなと膝を着いた。
「カルヴィン、どうにかできないの!?
お母さんの記憶を取り戻せないの?
これじゃあ、セリナがあまりに可哀想だよ!」
「エリオット……本当にそうでしょうか?
セリナは本当に可哀想でしょうか?
……ほら、ごらんなさい。
彼女の嬉しそうな顔を……
彼女はこの場所がとてもお気に入りで、ここで花を摘んだり、昼寝をすることが大好きなんです。
今の彼女には怖いものも何もありません。
……大切なものをなくしてしまったかもしれないけれど、今までの辛かったことや自分自身の負担になっていた大きな使命からもすべて解放された……しかも、そのことにすら彼女は気付いていない。
彼女の笑顔を見ていたら…ただただ、今、この一瞬、一瞬が楽しくてたまらない…そんな風には見えませんか?
セリナ…あなたはどうですか?
こんなお母さんだったら、もう愛情もなにも感じませんか?」
女性は一心に花を摘み、そして時折幸せそうに微笑む。
「か、母様……」
止まらない涙を何度も拭いながら、セリナは母親に声をかけた。
母親は、不思議そうにセリナをみつめ、やがて手元の花を一本差し出した。
「あ、ありがとう……
可愛いお花ね。」
母親は、セリナの言葉にとても嬉しそうに微笑んだ。
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