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「……炭焼きの爺さんは言ったんだ。
母さんは……自分のことを決して不幸だとは思ってなかったって。
獣人は母さんにとても良くしてくれたし、母さんはその獣人のことを好きだったって。
でも、それはきっとものすごく恐ろしい想いをしたから、混乱してたんだろうって爺さんは言ってた。
それと、死ぬ間際に母さんは、私の名と『ジュリアス』『サンディ』って言ったらしいんだ。」

「サンディは父さんの名前だ!!」

「……やっぱりそうか。
そうじゃないかって思ってた。
どっちがどっちかはわからなかったけど、きっと、父親と兄弟の名前だろうって思ってたよ。」

「そんなこと、今まで一言も言わなかったじゃないか。」

「ごめん……母さんは酷い目にあって、少し頭がおかしくなってたんじゃないかって思ってたし、そんな目に遭わせた獣人の名前なんて、口にするのもおぞましかった。
だから…誰にも…あんたにも言えなかった……」

ジャネットはそう言って、申し訳なさそうに瞳を伏せた。



「そうか…母さんは最後に俺の名前も呼んでくれたんだ……
ジャネット…母さんは、俺のことも愛してくれてただろうか?
こんな出来損ないの獣人の俺を……」

「当たり前じゃないか。
そうじゃなきゃ、あんたの父さんを好きだったなんて、爺さんに話すわけがないし、最後にあんたの名前を呼ぶわけがない。
母さんは優しい人だったって、爺さんは言ってた。
だから、きっと…あんたのことも……父さんのことも、きっといつも気にかけてたはずだ。」

フレイザーは、ジャネットの瞳からこぼれ落ちそうな涙を指でそっと拭った。



「お互いがお互いのことを思いやり、愛し合っていたのに……
なぜ、こんなにもみんなが苦しまなくちゃいけないんだ!」

「フレイザー、君の気持ちはよくわかる。
だが、ジュリアスとジャネットが巡り合ったことで、少なくとも彼らの苦しみの一部は昇華されたのではないか?
ジャネットもジュリアスも、両親に愛されていたことを知った。
愛し合う二人の間に生まれたことを知った。
……それは、君達の心に大きな変化をもたらしたのではないか?」

「そうかもしれない。
今まで、私の心の中に常に渦巻いていた怒りが、嘘みたいにどこかに消えてなくなった……」

そう言って、ジャネットはジュリアスの顔をみつめた。


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