「……大ありだ。
俺は、生まれてからずっと、みんなにそう思われて生きて来た。」

「どういうことだ…?」

「……俺の父は、母を逃がしたことで村の者から酷いリンチを受けた。
そして、その時から、村では最低の扱いを受けるようになったんだ。
しかも、俺は、普通の獣人よりずっと発育が悪かった。
せめて俺だけでもまともな獣人だったら、もう少しはマシな扱いを受けられたかもしれない……
俺が物心ついた時、父さんは片目が見えず片足は少し不自由だった。
リンチを受けた時からそうなったらしい。
村のはずれのほったて小屋で、俺達は暮らしてた。
父さんは朝から晩までみんなにこき使われて、真っ暗になってから帰って来た。
その前は、俺は俺と同じくらいの子供のいる獣人の家で暮らしてた。
父さんは何も言わなかったけど、きっと俺の発育が悪いから、父さんの所に戻されたんだろうと思う。
俺が少し大きくなると、俺も父さんと同様に皆にこき使われるようになった。
同じくらいの年の子供達は、楽しそうに毎日遊んでいるのに、俺は辛い仕事ばかりさせられて…そのことで父さんには何度も食って掛かったことがあるけど、いつも決まって『俺のせいで、おまえにまで苦労かけてすまないな』って…
その顔があまりに哀しそうだったから、俺もそのうち何も言えなくなった。
俺達が、そんな扱いを受けてる理由を知ったのは、確か12か13の頃だったと思う。
小さい頃に一緒に住んでた奴が、俺に理由を話したんだ。
俺はそのことを父さんに問いただした!
そしたら、父さんは、はっきりと真実を話してくれたんだ。
子供を産ませるために人間の女をさらって来たこと、父さんはそのうちにその人間と愛し合うようになったこと…愛していたから、命がけで母さんと人間の赤ん坊を逃がしたことを……
最初は俺にも理解出来なかった。
小さな頃に預けられてた家で、人間が悪い奴だってことはさんざん聞いてたし、そんな悪い奴を好きになったり逃がすなんて、俺には考えられなかったんだ…
でも……父さんから毎日のように母の思い出話を聞くうちに、俺には人間がそんなに悪い奴だとは思えなくなっていた。
それどころか、いつか人間の母さんに会ってみたいと思うようにもなっていた。
母さんの話をする時の父さんは本当に嬉しそうで…本当に愛してるんだって思ったよ。
……そうじゃなきゃ、命を懸けてまで助けたりしないよな。」

ジュリアスの長い話に、口を挟む者は誰もいなかった。


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